第3-14話 1+1
「ど、どうしたの? イツキくん。白雪さん。大丈夫……?」
きょとんとしている俺たちに、アヤちゃんが心配そうな視線を向けてきた。
向けられた側の白雪先生はアヤちゃんの細い手を握りしめたまま、立ち尽くす。
そんな白雪先生を見ている俺も似たようなものだ。
さっきまで神社にいたのに、気がつけば元の図書室に戻っていた。
しかも何もしてないのに、だ。
これで困惑しない方が無理あるというものである。
吐き出された俺は先生を見て、聞いた。
「……先生、今のって」
「…………」
白雪先生は無言。
ただ、見たことないくらい
険しい顔をしながら、続けた。
「簡単に言うと、アヤさんから拒絶されました」
「……拒絶?」
俺の問いかけに、白雪先生は頷く。
「さっき『共鳴』でアヤさんとのパスを繋ぎました。でも、アヤさんがそれを拒否したのです。電話でいうと、こちらから電話をかけて、アヤさんが一度取ったけれど話している途中で切った感じですね」
わ、分かりやすいなその説明。
俺は何が起きたのかを大体理解。
けれど、白雪先生の説明を聞いたアヤちゃんは目を丸くして、首を横に振った。
「わ、私……何もしてないです……」
「……そう思います」
アヤちゃんを説得するように、優しく白雪先生は語りかける。
「恐らく、アヤさんは本当に何もしてないんでしょう。アヤさんの中にいる『何か』が邪魔をしているのでしょう」
「……それって、アヤちゃんが寄生されてるってことですか?」
これまでそのケースを何度か見てきた俺がそう聞くと、白雪先生は「い、いえ。違います」と明確に否定した。
「寄生されていたら、さっきの『共鳴』で分かります。でも、さっきアヤさんと共鳴した時は途中までは……普通だったんです。だから寄生では、無いんです……」
ひとまず考えつく最悪ケースを回避できたことに、俺は安堵のため息を吐き出す。
良かったと言って良いのかどうか分からないが、とにかくアヤちゃんが寄生されていなくて良かった。
しかし、寄生されていないというのであれば……それこそ、アヤちゃんの身に何が起きているのかが気になる。
だが白雪先生はそっとアヤちゃんの手を離してから、落ち着かせるように言った。
「大丈夫です。もう一度、やりますから」
「は、はい。分かりました」
「失礼しますね」
白雪先生はそう言うとアヤちゃんとの結び合う『
だが、何も起きなかった。
「……あれ?」
アヤちゃんが首を傾げる。
だが、一方の白雪先生はより険しい顔を浮かべていた。
「……やられました。か、完全に『拒絶』されています」
「共鳴できないって、ことですか?」
俺がそう問いかけると、白雪先生は頷いてから続けた。
「……そうです。アヤさんの中にいる『何か』が、これ以上アヤさんの中に入ってこないようにしているんだと思います。電話で言うなら着信拒否です」
「な、なるほど……」
その電話の例えはハマったのだろうか。
分かりやすいな……って、そんなこと言ってる場合じゃないか。
「白雪先生。アヤちゃんは大丈夫なんですか?」
「そうですね……」
少し思案するように眉をひそめた白雪先生は、ゆっくりと口を開いた。
「今の所は……何も言えないです。な、何しろ乗っ取られてはないですし……」
白雪先生は思案し続ける。
「乗っ取っていないにしろ、アヤさんの中に”魔”がいる可能性もありますが……魔力に手をつけてないのが不思議なんです。む、むしろ漏れないように抑えてる感じもしますし……」
先生は考えを止めることなく可能性を1つ1つ潰していく。
つまり、アヤちゃんは乗っ取られてないし、魔力を食べられるなんてことにもなっていない。でも、魔法は使えないし『何か』がいる。
……何が起きているんだ?
一方の白雪先生は、ふっと顔をあげてアヤちゃんに疑問を投げかける。
「アヤさん。ま、魔法が使えなくなった1ヶ月前、レンジさんとのお仕事で向かったのは田舎の神社でしたか?」
「……田舎、でした。でも、神社じゃなかったです」
「どこに行ったのか教えてもらえませんか」
「なんか、村……みたいなところに」
村?
不思議に思った俺が質問するよりも先にアヤちゃんは説明してくれた。
「すごく昔の生活をしてる人たちばっかりで……おじいちゃんとか、おばあちゃんが多かったです」
「おじいさんと、おばあさんだけでした?」
「ううん。同い年くらいの子もいました。その子と友達になったんです。また遊ぼうねって」
そう言うアヤちゃんが嘘を付いているようには思えない。
だとすれば、本当にあったことなんだろう。
それなら神社は関係無いのか。
じゃあ、さっきのアレは何だったんだ……?
俺が首を傾げ続けていると、白雪先生は真面目な顔をしてアヤちゃんに向き直った。
向き直ってから、言った。
「アヤさんから『拒絶』されてしまっている以上、これから取れる方法は3つしかありません」
「え、3つも……?」
ちょっと驚いた声をあげるアヤちゃん。
正直、俺もちょっとビックリした。
何も打つ手がないんじゃないかと思っていたから。
「まず1つ目は時間を空けることです。電話の着信拒否は機械なので一度やったらずっと続きますが人の身体は機械ではないので時間を空けると『共鳴』できるようになります」
「どれくらい空けたら良いんですか?」
俺が尋ねると、白雪先生は優しく教えてくれた。
「1日くらいは空けるのが普通ですね」
1日も空けるのか……。
俺は時計を見ながら静かに息を吐き出す。
……正直、遅すぎる気もする。
いや、この1ヶ月何も無かったのだから、別に1日待つくらいはなんてことないんだろうが、それでもさっきのアレを見て何もせずに1日待つのは気が気じゃない。
そんなことを考えていた俺の顔はきっと渋くなっていたのだろう。
白雪先生はすぐに2つ目の手段を切り出した。
「2つ目は『共鳴』の深度を高めることです」
「……深度、ですか?」
初めて聞く言葉だ。
「イツキくんは『共鳴』の基礎をやったので、わ、分かると思いますが似たような性質を持つものは共鳴しやすくなります。これを逆手にとって『共鳴』を強くする方法があるんです」
そんな方法があるのか。
どうやってやるのかさっぱり分からないが、今はそれよりも先に3つ目の手段を聞いたほうが良い。
「先生。3つ目はどんなことするんですか?」
「1つ目と2つ目を組み合わせます」
しかし、返ってきたのは俺の予想外の手法。
「時間を空けながら、共鳴の深度を高めます。この方法が、一番効果があるでしょう。でも、これをやるためには、イツキくんの協力が必要不可欠です」
「僕ですか?」
急に名前を呼ばれたので、少し目を丸くしてしまった。
「協力してくれますか……?」
白雪先生にそう聞かれて、俺は勢いよく頷いた。
「もちろんです。でも、僕は何をすれば良いんですか?」
「は、はい。イツキくんと、アヤさんには……仲良しになってもらいます」
……仲良し?
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