11,0 未確認で過去形 Forgatten・起
あーちゃん! ヤバいよ! マジでヤバい!
今晩は新月だったからさ、空が暗いぶん夜景がキレイだろうなーって思って丘の上に撮影にいったんだよ。
そしたらさ、撮れちゃった!!
何がって、UFOだよUFO! 未確認飛行物体! 空飛ぶ円盤! あーちゃんの大好物!
街の上空をブンブン飛んでてさ、もう無我夢中でシャッター切った! そしたらもうバッチリ写ってんの! マニア? とかに高く売れちゃうかも!
あーちゃんはこーゆーのに詳しいって言ってたんだけど、どうかな!?!?
明日の補習の後で意見聞かせてネ! じゃね~!
件名:ヤバい写真撮れちゃった!
投稿者:後藤
夏休みといっても、高校生にもなるとやることは多い。
ぼくの通う学園も、一般的には進学校とされているわけで、いわゆる”補習授業”というものが夏の間に開催されている。
これは定期テストで赤点をとった生徒はほぼ強制参加。加えて、進学希望の生徒も任意だけど対象となっている。
ぼく自身の成績は可もなく不可もなく、赤点をとったワケでもないんだけど、夏休み中に登校しても先輩がいない時間は暇なのでわりと任意受講していることが多い。
別に一年生の今から進学希望ってワケじゃないし、志望校があるワケでも、将来の夢があるワケでもない。何か深く研究したいってワケでもないんだけど、漠然と自分は進学だろうな……なんて考えながら問題を解く日々だった。
将来の自分がどうなっているかなんて今考えても、わかるわけないじゃん。
だけど思わぬ収穫もあった。
後藤さんと出会えたことだ。同じ一年生女子で、違うクラスだけど補習で隣の席になった。写真部所属で明るい性格、同じカメラ女子ということですぐに意気投合した。
話をするなかで、ぼくがオカルトマニアだと知った彼女は「マジ!? じゃあ今度心霊写真とか撮れたらあーちゃんに送るね~」と約束してくれた。
はず、だったんだけど……。
「どうしたんだよ、神妙な顔して」
その日の補習が終わった後のことだ。
ぼくの顔をみるなり怪訝そうに先輩が声をかけてきた。
ここは図書準備室。ぼくと先輩の”謎解き活動”の拠点だ。何もしなくても学年トップの成績を維持できる先輩は当然補習なんて受けないから、午前中から涙ぐましく補習を受けるぼくとは違い、午後から悠々と重役出勤してくるのだ。
さて、先輩のことはさておきこの部屋の話に戻ろう。図書準備室は内側から鍵をかけられる構造なんだ。先輩に状況説明する前に、ぼくは部屋に入るなり後ろ手で扉をロックした。
これで外から扉を開けるには鍵が必要になった。鍵は先に来た先輩が持ち込んでいるはず。入るにはマスターキーが必要になる。ここは3階だし、そうそう窓から侵入されることもないだろう。
一安心かな。ほっと胸をなでおろす。
「大丈夫か?」
ぴとり、冷たい感触が額に触れた。
「ピヤァ――!?」
情けない声を上げて飛び上がってしまう。
額に触れたのが、いつの間にか近づいてきていた先輩の手のひらだったことに気づいたのは数秒たってからのことだった。
「な、なんだよ。お前さっきから様子がおかしいぞ。顔面紅潮、額に過度の発汗、呼吸回数も多すぎる。過呼吸になる前に、まずはいったんゆっくりと深呼吸するんだ」
「は、はいぃ」
すー、はー。
先輩に言われて深呼吸をした。
バクバクと高鳴る心臓が徐々に落ち着いてきた、ような気がする。
その様子を見届けた後、先輩は落ち着いた声色で話しかけてくる。
「それで、何があったんだ?」
「それは……UFOの写真なんです」
「は?」
「UFOですよ! 未確認飛行物体! 空飛ぶ円盤です!」
「意味はわかる。Unidentified Flying Objectだろ」
「撮れちゃったんですよ、これです!」
図書準備室の中央に置かれた机に、今朝拡大印刷してきた例の画像を広げた。
高台からこの街の夜景を撮影したものだ。
新月と街の灯りのコントラストが美しい……けれども、写真の上の方に異物が写り込んでいた。
新月の闇よりも黒く細長い楕円形の”何か”が夜景の上空に浮かんでいるのだ。
先輩は顎に手を当てて「ふム」と唸り、言った。
「確かに妙なモノが写り込んでいる。だがいまどき、デジタルデータならいくらでも改ざんできるし、
「さすが先輩、鋭いですね」
そう、ぼくだってアマチュアとはいえカメラマンの端くれ。
以前”心霊写真”を検証したときもそうだったけど、カメラは必ずしも真実を写すわけじゃないのは知っている。
だけど今回はそういう問題じゃない、すでにそれどころの話じゃないんだ。
「この写真、ぼくが撮ったモノじゃないんです」
「だろうな、いつもみたいにメールで送られてきたんだろ?」
「はい。補習で隣の席になった、写真部の後藤さんです。同じカメラ女子なのでよく話すようになったんですけど」
「この写真が気になるっていうなら、まずはその後藤さんに話を聞くべきなんじゃないのか?」
先輩は至極真っ当なことを提案した。
それでも、何度だって言うけど、今回はそういう問題じゃないんだ。
すでに問題はそんな常識的な
「無理なんです」
ぼくはポツリとそう漏らした。
「え?」
「昨晩メールをもらいました。ぼくも次の日の補習の時にでも、後藤さんに話を詳しく聞こうと思っていました。でも、もう無理なんですよ」
「お前、何を言って……」
本当は言いたくない。
何かを証明してしまうことになるかもしれないから。
それでも、こういうときに頼れるのは目の前の先輩しかいない。
だからぼくは、ゆっくりと口を開いた。
「後藤さんは
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