第54話 すっかり忘れてた
次の日の朝、三人が昨日と同じように朝食を食べていると、ドアをノックする音が聞こえてくる。
「すみませーん、お迎えに上がりましたー」
メレウスの声だ、この時イーリス達は模擬戦をさせられる事を思い出した。
一足先に朝食を食べ終えたアルベルが席を立ち、玄関のドアを開ける。
「はーい」
「おはようございます……まだ朝食の最中でしたでしょうか?」
「そうですねぇ、もー少し待ってもらえますかね」
「分かりました、外で待っているので、準備ができたら声をかけて下さい」
「わかりましたぁ」
アルベルは営業スマイルを保ちつつ、そーっとドアを閉める。
「やばい、忘れてたぞ」
「…………」
三人の間に何とも言えない空気が漂う。
「……とりあえず行くしかないよ、早く食べて支度しよ!」
イーリスが場をまとめ、各々行動を再開した。
武器を携えた三人は、魔王城の近くにある訓練場へと連れて来られた。
帝国軍の宿舎に併設されていたものと比べるとかなり広く、街の区画一つ分はありそうな面積がある。
「おう、お前らが魔王様が言っていた模擬戦相手か。三人共ヒョロそうだが、ホントに大丈夫か?」
整備された広大な平地の真ん中で、イーリス達は黒い鎧を着た、褐色肌でスキンヘッドの男と対峙していた。
この時点でかなり威圧感のある見た目だが、その男はとにかくでかかった、身長は三メートル近くあるだろう。
右手には普通の人間の身長程ありそうな大きさのメイスを握っていた。
「心配する必要はありません、彼らはたった三人で聖法国の“使徒”に勝利しています」
「そうか……まあワシも魔王様の言葉は疑わん。実際に戦って実力を見れば良かろう」
褐色の巨漢は三人を見下ろし、大きな声で自己紹介を始める。
「ワシはゴルドー・アンダルシウス。魔王軍で将軍をしておる! 見ての通り巨人族じゃ! 今日はよろしく頼むぞ!」
イーリス達は怯みはしないものの、その威圧感と陽気さを前に、動揺を示す。
「では、先にゴルドーさんと模擬戦を始めてて下さい。私は今から着替えてきますので」
メレウスはそう言ってその場から立ち去ってしまった。
ゴルドーはその姿を見送った後、品定めするようにイーリス達をまじまじと見つめる。
「ど、どうしたんすか?」
アルベルが恐る恐る声をかける。
「ふむ……よし! 黒髪の男、白い獣人の娘、ワシと戦え!」
「アルベルです」
「シトリーです」
突然の指名に対し、特に驚いた様子のない二人。
むしろイーリスが、自分が指名されなかった事に驚いていた。
「アルベルとシトリーか! では武器を構えろ! 灰色の獣人の娘は少し離れて見ておれ!」
「えっ!? あ、はい……」
イーリスは少し悲しそうな様子でアルベル達から距離を取る。
「どうしてイーリスを指名しなかったのかしら?」
シトリーは憤りを見せながら問いかける。
「なに、メレウスの分を残しただけの事よ、ワシが全員倒してしまってはあやつに悪いからな!」
「そう……ついでにもう一つ質問なんだけど、今は魔王軍幹部って何人いるの?」
「三人じゃ。ワシとメレウス、そんでマリクというのがおるんじゃが、そいつはちょうほうぶ? とかいう所にいるせいで、あまり表舞台には出て来んのじゃ」
「ふーん、じゃあ私達が無傷で貴方を倒せば、三人でメレウスと戦っても良いかしら?」
「もちろん! それができればの話じゃがな」
アルベルは刀の柄に手を起き、シトリーも集中力を高める。
「では、参る!」
ゴルドーはメイスを構え、真っ直ぐに突進してくる。
「
シトリーが魔法を行使し、ゴルドーに向けて地面から何本もの氷の槍が突き出る。
ゴルドーはそれを避けるでもなく、そのまま突進を続けた。
結果として、氷の槍は鎧を貫き、その巨大な胴体に突き刺さった。
しかし、その勢いは衰える事はなく、凄まじい勢いでシトリー達の方に向かってきていた。
(なんで効いてないのよ!?)
シトリーは僅かに動揺する。
アルベルが前に出て、刀を抜く。
「ふんっ!」
ゴルドーはアルベルの頭蓋めがけて薙ぎ払う。
(殺す気かよ!?)
アルベルは素早くしゃがみ、致命的な一撃が頭上を通り過ぎる。
そのまま懐に潜り込み、鋭い斬撃を放つ。
だが、その攻撃は空を切った。
次の瞬間には、ゴルドーは後ろに退いていた。
(
それは、あの巨体が、アルベルの動体視力を以てしても捉えられない速さで動いた事を示していた。
「小僧、良い一撃だ! しかしそれではワシは斬れんぞ!」
ゴルドーは恐らくまだ本気を出していない。
その事はアルベル達も理解していた。
「これが魔王軍幹部の実力か……良いね、素晴らしい、楽しくなってきたよ」
アルベルの目がギラリと輝いた。
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