第52話 苦い質問

 森の中にポツリと建てられたコテージ。

 少し離れた場所には川も流れており、風情を感じる。


「へぇ、中々良い場所じゃん」

「なんだかとっても落ち着いた場所だね」


 アルベルとイーリスは好印象を示す。


「ここなら周りに民間もないので、夜に激しく致しても気づかれる心配はありません」

「しないよ、一体何を期待してるんだ」

「二階の寝室は仕切りが無いので、夜這いも簡単ですよ」

「うん、とりあえず中を見せてくれるかな」


 メレウスの戯言たわごとを無視し、アルベルはコテージの中へと入っていく。

 一階にはダイニングテーブルとキッチン、奥には本棚と事務机がある。

 手前には二階への階段がある。

 内装はもちろん、家具もほとんど木製であった。

 しっかりと掃除されており、埃も積もっていない。


「中は思ったより綺麗だな」

「良い感じだね」


 アルベルに続いて、イーリスとシトリーも中に入っていく。

 しばらく一階をウロウロしてから、階段を登り二階を見にいく。

 そこには、広々とした部屋の奥に三つのベッドが並べられており、手前には大きめのクローゼットが二つ置いてある。


「ベッドが三つ……ずいぶんと準備が良いな」

「ホントに仕切りが無い……」


 イーリスは赤面して俯く。


「あー、なんかもう疲れた。俺は寝る、おやすみ!」


 アルベルはそう言って、刀を枕元に置いてそのままベッドで横になる。


「もー、アルベル!」

「悪いね、少しだけ寝かせてくれ……」


 イーリスは憤慨するが、その気持ちも虚しく、アルベルはすぐに眠ってしまう。

 それだけ疲れが溜まっていたのだろう。


「……シトリー、下降りよっか」


 シトリーは小さく頷き、イーリスと一緒に一階へと降りる。


「部屋の方はいかがでしょうか?」

「うん、とっても良い感じです。手配して頂きありがとうございます」


 イーリスはペコリと頭を下げる。


「それは良かったです。私はそろそろ失礼します、模擬戦については二日後にこちらからお迎えに上がります。もし困った事があれば魔王城までお越し下さい」

「はい、分かりました」


 メレウスは優しく微笑む。


「そうそう、最後に一つ聞いておこうと思った事があります」

「何ですか?」


 イーリスは首を傾げる。


「貴方は獣人が平和に暮らせる世界を作りたいと言っていましたね。少なくともここ、魔王国では獣人も他の種族と同等に扱われ、平和な生活が保障されています。それではダメなのでしょうか?」


 メレウスの問いに対して、イーリスは少しの間沈黙する。


「……確かに、ここは良い国です。でも、帝国や聖法国では未だに獣人が差別されています。私は獣人だからという理由でそれらの国に行く事が制限されている事が許せないんです。全ての種族がどこへでも行ける世界にしたい、これが私の願いです」

「なるほど……以前、魔王様も同じような事を仰っておりました。もしかしたら、そんな世界がいつか来るかもしれませんね。私も、貴方の願いが叶うように祈っております、どうかそんな世界を作って下さい、期待してますよ」


 メレウスはそう良い残し、その場を立ち去った。

 一階の部屋は、イーリスとシトリーの二人きりになる。

 二人は黙ったまましばらくその場に立っていた。


「……ねぇシトリー」


 最初に口を開いたのはイーリスだった。


「どうして聖法国に復讐する事を止めてくれなかったの? シトリーは賢いから解ってたんでしょ?」

「…………」


 シトリーは俯いたまま答えようとしない。


「村が襲われた時もそうだった。貴方ならもっと多くの獣人を助けられた筈なのに、すぐに私を連れて逃げる事を選んだ……ねぇなんでなの? 答えて」

「……ごめん」


 イーリスの問いに対し、シトリーは小さな声で謝る。


「言えないなら良い、でもこれだけは約束して。もう私の事を裏切らないで、これからもずっと一緒にいて欲しい。私が心の底から頼れるのは、結局のところシトリーだけだから」

「……分かったわ、約束する」


 シトリーの声は今にも消えそうな程に儚かった。



 次の日の朝、シトリーとイーリスが目覚める。

 二人共下着姿でベッドから出て、アルベルが寝ていたベッドの方を見る。


「あれ、アルベルは?」

「居ないなら都合が良いわ、今のうちに着替えてしまいましょう」


 二人はいつもの服装に着替え、一階へ降りる。

 そこには、キッチンでフライパンを握っているアルベルの姿があった。


「やっ、二人共おはよう! 今日の朝食はパンと目玉焼きとウインナーで良いかな?」

「アルベル……貴方料理できたの? っていうかその食材はどこから出てきたのよ!」


 シトリーは驚いた様子を見せる。


「いやー昨日早く寝た分、朝早く起きちゃってさぁ。そんで暇だから町の方行ったら暗いのにもう市場が開いててさ、折角だから簡単に調理して食べられるものを買ってきたってわけさ!」


 アルベルはダイニングテーブルに三人分の朝食を並べる。


「良く分かんないけど、シトリーも元気そうで良かったよ。んじゃ、食べよっか」


 三人は席に座って手を合わせる。


「「「いただきます!」」」

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