アルベル編

第51話 魔王国へようこそ!

 白い床に高い天井、奥には黒い玉座があり、そこから真っ直ぐに広い幅の赤いカーペットが敷かれていた。

 真っ白な大理石の柱には燭台が取り付けられているが、その上に乗っているのは蝋燭ではなく、光を放つ細い棒であった。

 そんな大広間の真ん中に、シトリーと、黒い鎧に白いマントを纏った銀髪長髪の男が立っており、その足元には気絶したアルベルとイーリスが横たわっていた。


「回復魔法をかけてやれ」

「え、ええ……」


 シトリーは銀髪の男に促され、倒れている二人に回復魔法を使用する。


負傷治癒ヒーリング


 アルベルとイーリスの傷が塞がり、二人共目を覚ます。


「……あー、いてて。体が重い」

「うーん……ここは?」


 二人は困惑した様子でゆっくりと立ち上がる。

 そして、銀髪の男を視認した途端、その表情に緊張が現れる。


「まあ落ち着け、俺はオルヴァ=ラグナロク。この国を統べる王、多くは俺を“魔王”と呼ぶ」

「……俺はアルベル・ブライト」

「私はイーリス……です」


 アルベルとイーリスは誰に言われるでもなく、自然と自己紹介を返していた。

 オルヴァはその様子を見て満足げに頷く。


「さて、では聞こう。どうして貴様らは聖法国を襲撃した?」


 その問いにイーリスが臆する事なく答える。


「獣人が平和に暮らす世界を作るために必要な事だからです!」


 オルヴァはその答えを聞いて、何かを考えるように首を傾げる。


「ふむ……しかし、力任せに国を落としたとこで、何も変わりはしないぞ? 今回はそこの男が首謀者と見做されているから良いものの、もし最後まで獣人二人でやり遂げていた場合、むしろ獣人を危険視する材料にされていたぞ」


 それを聞いて、イーリスはすぐにシトリーの方に視線を向ける。


「…………」


 シトリーは申し訳なさそうに視線を落としたまま、イーリスの方を見ようとしない。


「まあ良い、では次はこちらの話を聞いてもらおう。お前達を助けた理由は二つある。一つは外交のカードになるからだ、今お前達は帝国、王国、聖法国の三国で指名手配されている、つまりお前達の身柄を引き渡す事で、三国に対して優位に外交を進める事ができる」


 アルベルの額から汗が滴る。

 オルヴァの言っている事は、三人が最終的に処刑されるという事を示していた。


「そしてもう一つの理由だが、たった三人で聖法国の首都を壊滅させた戦力に期待している」

「……どういう事だ?」

「魔王軍幹部の戦力向上のために模擬戦をして欲しい、奴らには幹部同士でしかまともにやり合える相手がいないのだ。俺が相手になっても良いが、戦力差がありすぎて練習にならん。もし引き受けるなら、お前達をこの国で保護してやっても良い」


 イーリスはその提案を聞いてすぐに頷いた。


「私達が生き残る道はこれしかない……アルベル、シトリー、良いよね?」

「俺は賛成だぜ」

「ええ、私もよ」


 二人もオルヴァの提案を受け入れる。


「よし、ではお前達に案内役を付ける。メレウス、来い」

「はい、仰せのままに」


 どこからともなく、緑髪の竜人族の女性が現れる。

 上半身はバトラースーツ、下半身は黒いショートパンツにロングブーツを履いており、太ももが露出している。


「私はメレウス・クレーバー、魔王軍幹部を務めさせて頂いております」


 メレウスは丁寧にお辞儀する。

 その立ち振る舞いは気品を感じさせる。


「メレウス、この三人を新しい住居に案内してやれ」

「お任せ下さいませ、魔王様」


 魔王に対し、メレウスはさっきよりも深くお辞儀をする。

 その態度には深い忠誠心が見て取れる。


「では参りましょうか、御三方」


 三人はメレウスの後をついて行き、魔王城を出る。

 そして、城を出た先に広がる光景に、イーリスとアルベルは目を奪われる。


「へぇ、これが魔都ヴルムの街並みか」

「あんまり帝都と変わらない?」


 そこには、帝都とほとんど変わらない街並みが広がっていた。

 建物の造り、店の賑わい、町そのものの活気、どれも帝都とほぼ同じだった。

 ただ、帝都とは一つ大きく違う点があった、それは、道ゆく人々の種族である。

 エルフ、ドワーフ、ゴブリン、オーク、獣人、竜人、そして人間。

 どの種族も、他の種族に分け隔てなく接していた。


「良い国でしょう」


 メレウスがぽつりと呟く。


「うん、私も良い国だと思います」


 イーリスが答える。

 三人はそのままメレウスの後を追っていく。

 時折町の中の人々が興味深そうに見てくるが、魔王軍幹部であるメレウスに注目しているのか、ボロボロの服を着ているイーリス達に注目しているのかは分からない。


「あ、服はどうなさいますか? 新しいのを買うのであれば、服屋に寄りますが」

「自分達で直すよ、後で裁縫道具を買いに行かせてくれ」

「はい、分かりました」


 アルベルの希望で雑貨屋で裁縫道具を買い、町外れにある森へと入っていく。


「この森にいる危険な魔物は狩り尽くされているのでご安心下さい」


 しばらく森の奥へと進んでいくと、二階建てのコテージの前へと辿り着く。


「こちらがしばらく皆さんが住む事になる場所です」

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