第50話 その時起きた事
◆◆◆
私の名前はイーリス、帝都からしばらく西に行ったところにある村に暮らしている、普通の狐獣人の女の子です。
林に囲まれた場所で、近くには川もあり、多くの獣人が農業などをして穏やかに生活しています。
レンガ造りの家が多く建てられており、嵐が来てもへっちゃらです。
服はみんな麻で作った飾り気の少ない服を着ています。
この村では麻以外の布は高級品です。
「おはよう、お父さん、お母さん!」
私の両親は二人共灰色の髪の狐獣人です。
「おはようイーリス」
「あらおはよう、朝ごはんできてるわよ」
今日の朝ご飯はパンとコーンスープとレタスのサラダです。
母の作るコーンスープには私の好きなベーコンがたくさん入っています。
「「「いただきます」」」
三人で手を合わせます。
食べ物への感謝は忘れません。
特に用事のない日は、朝食を食べた後にシトリーのところへ遊びに行きます。
(ノイズ音)
「じゃあ行ってきまーす!」
「またシトリーの所ね? 夕方には帰って来るのよ!」
私とシトリーは昔からの幼馴染で、よく遊んでもらっています。
シトリーの家は何故か少し村から外れたところにあって、その道中に他の獣人と会う事もあります。
「よおイーリス! 今日もシトリーのところに行くのか?」
「こんにちは、リオス君! そうだよ、リオス君も来る?」
「いや、いいや。オレ魔法とか見てもよくわかんねーし」
この金髪の犬獣人の男の子はリオス君、私より少し年上です。
少し荒っぽいところがあるけど、よく私の事を気にかけてくれます。
畑に囲まれた道を歩いて、林の中に入って、更にしばらく進むとシトリーの家が見えてきます。
赤レンガの家が多いのに対して、シトリーの家は何故か青レンガで造られています。
「シトリー、遊びに来たよ!」
「あらイーリス、いらっしゃい!」
私が来ると、シトリーは大喜びで飛び出してきます。
そんな姿を見ていると、私まで嬉しくなってきます。
「ねぇシトリー、今日はどんな魔法を見せてくれるの?」
「今日はねぇ……光の柱を作る魔法を見せます!」
「やったぁ! 見せて見せて!」
シトリーが見せてくれる魔法はどれも不思議で、見ているだけで何だかワクワクしてきます。
私も使ってみたいけど、沢山勉強しないといけないみたいです。
私は勉強が苦手なのでちょっと難しいですね。
(ノイズ音)
「じゃあ離れててね……いくよ?
シトリーが空に向けて細い光の柱を作り出しました。
「わぁ、綺麗……」
「ったはぁー! つかれた!」
「大丈夫?」
「ええ、今のは結構疲れる魔法なのよ。休憩したいからお茶でもしましょ?」
「うん!」
シトリーの家に戻って、二人で紅茶を飲んでいると、村の方から悲鳴が聞こえてきました。
「キャァァァ!!」
私とシトリーはすぐに立ち上がります。
「えっ、何!?」
「イーリス、見に行くわよ!」
シトリーと一緒にみんながいる方へ走り出します。
私はその時既に悪い予感を感じていました、胸騒ぎがして、不安で押し潰されそうでした。
そして、その悪い予感は最悪の形で的中しました。
私の目の前に広がっていた光景は絶望的なものでした。
建物は焼かれ、白い鎧を着た人が村の獣人達を襲っていたのです。
道には既に切り殺された獣人が何人も倒れていました。
「獣人は全員殺せー! 一匹も逃すな!」
私はその光景を茂みに隠れて震えながら見ている事しかできませんでした。
私の平凡な日常は、いとも容易く壊されてしまいました。
「……イーリス、逃げるわよ!」
シトリーは恐怖で泣き出しそうな私の手を握り、その場から逃げるように走り出しました。
「お父さんとお母さんが!」
「ダメ! もう……助からないわ…………」
そう、悲しそうにシトリーは言いました。
それを聞いた途端、私は泣いてしまいました。
泣きながら走りました。
泣いて泣いて、走って走って。
ただただずっと、シトリーに手を握られて、泣きながら走りました。
どれだけの時間走ったでしょうか、気づいた時には朝になっており、帝都の門の前に立っていました。
「イーリス、私達はこれから奴隷になるのよ。自分達を守るためにね」
私はその言葉の意味をすぐに理解しました。
帝国は獣人に厳しい国である事は知識として知っていました。
そんな国で身の安全を確保するためには、自分に商品としての価値を与えるしかないのです。
私達は奴隷商人に自らを売り、商品になりました。
幸いにもシトリーとは隣同士の檻に入れられたため、恐怖はそんなにありませんでした。
私はシトリーに言いました。
「ねぇシトリー。私、村を滅ぼしたやつらに復讐したい。そして、獣人だからって理由だけで殺される世界を変えたい……!」
シトリーは言いました。
「……私も協力するわ、私はイーリスの味方だから」
それから二日後、ここに黒髪の男が現れました。
「お兄さん! 最近若い獣人の女が二人も仕入れられたんだ、買ってくかい?」
「ほほう、どれどれ……」
その男は私をジロジロ見た後、嬉しそうに微笑みました。
「よし、二人共買った!」
「おお! まいどあり!」
私とシトリーは、この男に買われました。
「さあ二人共、これから色々と話す事があるからな。早速俺の事務所に来てもらおうか」
それから私達二人は、この男、アルベルの所で傭兵として仕事をする事になるのです。
………………
…………
……
傭兵をやって気づいた事があります。
シトリーは強いです、とてもとても強いです。
素人の私から見ても魔法で戦った経験がありました。
私は思うのです、シトリーが本気になれば村のみんなを助けられたのではないかと。
どうしてシトリーは私の村を見捨てたんですか?
シトリーは、何を隠しているんですか?
◆◆◆
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