第47話 反魔の力
アゼルはもう一度光の盾を展開し、アルベルの攻撃に備える。
「無駄だ、その盾じゃ俺の攻撃は防げない」
アルベルが両手で刀を握りしめると、刀身から黒い霧が発生する。
そして一気に距離を詰め、盾を一刀両断する。
「ッ!? どうして裁きが下されない!?」
アゼルはやや動揺した様子を見せる。
(まさか……反魔力?)
シトリーはその力の正体に心当たりがあった。
「甘いぞ聖職者さん、俺はこう見えて強いんだ」
アルベルは更に深く踏み込み、鋭い水平切りでアゼルの腹を切り裂いた。
「がはっ!」
アゼルは吐血した。
(……浅いな)
だが、致命傷を与えた手ごたえがなかった。
それどころか、傷が一瞬にして塞がっていく。
(ウッソだろおい!)
アルベルは動揺しつつも、更に追撃を加える。
「剣よ」
アゼルがそう言うと、右手に光輝く剣が創り出され、黒い霧を纏った刃を受け止めた。
(切れない……なんて魔力密度だ!)
二人は剣と刀をぶつけ合い、激しい攻防を繰り広げていた。
剣技はアルベルの方が上回っていた、しかし、パワーとスピードにおいてはアゼルの方が上で、どちらも押し切る事ができなかった。
「神に背いた罪を
アゼルは怒号を上げながら激しく剣を振る。
「ふんっ」
まともに受ければ容易く吹き飛ばされるような攻撃を、高い技能で受け流していた。
「隙ありだぜ」
刹那の隙を突き、アゼルの脇腹に刀を刺す。
「ぐっ! ……効きませんよ」
アゼルは動じる事なく反撃し、アルベルを一歩退かせる。
そして、刺し傷も一瞬のうちに再生されてしまう。
(反魔力を流しても力が衰える様子がない……再生能力も身体能力も魔力によるものではない?)
アルベルは自分の力が通じていない事に気がつく。
しかし、それでも彼は諦めない。
「まあ良いさ、大体動きは読めた。そろそろ仕留めさせてもらうぞ」
再び素早い踏み込みで距離を詰め、鋭い一撃を放つ。
「足元がお留守ですよ」
アルベルの足元が光り出し、白く輝く槍が突き出される。
「おっとぉ」
攻撃を中断し、横に飛び退く事で避ける。
避けた先にも槍が突き出し、動き続ける事を余儀なくされる。
(こんな事されてたら体力が持たん……そろそろカタをつけないと)
「ふう……ふう……」
アルベルは息が上がっており、疲労が見え始めている。
足元に迫る槍を避けつつもう一度距離を詰め、打ち合いへ持ち込む。
だが、さっきと違い槍を避けながらの攻防であるため、体力も集中力もみるみる削られる。
シトリーとイーリスは心配そうに戦いを見守っている。
「アルベル……!」
「何か、私達に出来る事は……!」
恐るべき事に、この限界状態に入る事こそがアルベルの狙いだった。
(来たッ……『ゾーン状態』!)
アルベルは相手の動き、槍の攻撃がスローモーションに見えていた。
精神も体力も限界の極地、それでいて思考は驚く程冴えていた。
(見える、隙が見える!)
戦いの最中、アルベルは敵前で刀を鞘に納める。
姿勢を低めて右手で柄を握り締める。
その構えは居合の構えであった。
視線は相手の喉元を捉えていた。
「一閃」
最速の一撃。
音は遅れてやってきた。
黒い刃は流れるように鞘に戻っていく。
「……終わりだな」
アゼルは何が起きたのか分からなかった。
驚愕と疑問に満ちた表情を浮かべながら、体の自由が利かない事に気づく。
それもその筈である、頭と体が離れているのだから。
そう、アルベルは一撃の下にその首を刎ねたのだ。
「”使徒“か、確かに手強かったよ。でも言っただろ? 俺は強いんだ、悪いね」
ほんの一瞬前まで”使徒“の役割を背負っていた青年の、首のない胴体に向かって語りかける。
これで、聖法国の最強戦力は滅んだ。
イーリスの復讐劇は幕を閉じた。
……だが、アルベルはすぐにその違和感に気づいた。
「アルベル?」
シトリーも、アルベルが何かに気づいた事に気づく。
イーリスは何が起きたのか未だに状況を飲み込めていなかった。
「……チキショー!」
アルベルは未だ直立している、首のない胴体に向かって再び居合斬りを放つ。
その胴体はどう考えても死んでいるように見える、だが驚くべき事に、居合の一撃をバックステップで避けたのだ。
「えっ?」
「生きてるの!?」
イーリスとシトリーも驚きの声を上げる。
その胴体は突如として肥大化を始め、服を破り、肌が白く変色し、首の断面からは新たな頭が生えてきた。
そして、その姿は以前戦ったある存在に姿が似ていた。
”夜の傷跡“である。
肌は白いものの、巨大な人の形をしている事、目がなく不気味な口が開いた顔をしている事などの特徴を持っていた。
アルベルは狼狽えながらも足元に視線を落とす。
そこには、驚愕と疑問に満ちた表情を浮かべたアゼルの首が転がっている。
「第二回戦始まり……ってわけか」
シトリー、イーリス、アルベルの三人は目の前の怪物を倒す決意をした。
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