第16話 ツインサンダー

 ビアンカとベレトは武器を構え、吸血の男と対峙する。


「その素晴らしい戦闘力への敬意として、私の名前を教えておこう。私はデューク・ディ・ガーレン、今宵君達を喰らう者だ」


 デュークと名乗る吸血鬼は丁寧にお辞儀をする。


「では、戦いの続きをしようか、挑戦者達よ」

「悪いが、私達は敗北する事が許されていないんだ。お前と違ってな」


 ビアンカが皮肉混じりにそう言ってのけた。

 その様子を見て、ベレトは嬉しそうに笑みを浮かべる。


「何だと……? ならばその力を見せて見ろ、人間共!!」


 デュークは感情を昂らせ、両手の剣を大きく構えた。


「私は右、お前は左だ」

「任セロリ」


 ビアンカとベレトは挟み込むように距離を詰める。


「挟撃か、だが甘いな」


 ビアンカはデュークの下半身に向け、て雨の如き連続突きを繰り出す。

 ベレトはその首目掛けて連続で剣を振る。

 だが、その攻撃は両手の剣によって、全て正確に防がれる。


「良い攻撃だ、だが、そんな攻撃を続けていても意味はないぞ?」


 すると、二人は何かを唱え始める。


「「雷鳴司る神よ、怒り給え、裁き給え」」


 二人は攻撃の手を緩める事なく、魔法の詠唱を開始する。

 吸血鬼は動揺を見せるが、その怒涛の攻撃を防ぐ以外にできる事は無い。


「お前ら、その魔法はッ!」

「「どうか鉄槌の雷を以て、眼前の敵を滅ぼした給え」」

「やめろォォ!!」

「「招雷撃サンダーボルト!」」


 詠唱を終えると同時に、二人はデュークから素早く距離をとる。

 それと同時に、天から双つの雷がデュークに落ち、直後に凄まじい轟音が響く。

 ビアンカとベレトは、その轟音と衝撃波から身を守るために両手で顔を覆う。

 そして、爆風が収まり、雷が落ちた場所に目を向ける。

 そこには、かつて吸血鬼であった、黒焦げた死体が落ちていた。

 煙が立ち、煤が周囲の地面を黒灰色に染める。


「……吸血鬼の再生力でも、ここまですれば蘇れまい」

「まあ流石に死んでるでしょ」


 太陽の光を遮っていた帷が消え、再び日光が森を照らし始める。


「これで一件落着だねぇ」

「そうだな、後は報告書をみっちりと書かねばな。ベレト、お前も手伝え」

「えー、めんどくさーい」



 後日、ベレトとビアンカは事務所で報告書を書いていた。

 普段、書類仕事を面倒臭がっているベレトも筆を持ち、二人とも無言で手を動かしている。

 ペンと紙の音、そして時折、ビアンカがコーヒーを啜る音だけが聞こえる。


「なあ、ベレト」


 その静寂の中に一滴の雫を落とすように、ビアンカが口を開く。


「どうしたんだ? ビアンカ」


 ベレトが手を止めて、会話に応じる。


「お前には、将来の夢はあるのか?」

「なんだよ、藪から棒に」

「お前は私より強い、きっと私よりも早くホワイトオーダーになれるだろう。そしたら私は……」

「俺はホワイトオーダーにはならないよ。俺にはもっと大切な夢があるから」


 ビアンカは少し驚いた様子でベレトの方を見る。

 ベレトは真面目な表情で正面を向いていた。


「俺は、どうしても幸せにしたい人がいるから。そいつの夢を叶えたいんだ」

「……その人が誰か、聞いてもいいか?」


 ビアンカは不安そうに、恐る恐る問いかける。

 その問いに対し、ベレトは上を向き、何かを考えるように目を瞑った。

 しばらくの沈黙の後、ビアンカの方を向いて、優しく微笑みかける。


「秘密だ」


◇◇◇

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