第15話 猛威猛攻
「死ね人間共!」
「魔族に勝てるわけねぇだろ!」
リザードマンやゴブリン達はすぐに応戦し、ネビュラスカイとの乱戦が始まった。
体格差ではかなり不利だが、隊員達は安易とその攻撃を弾き返していく。
「油断するな、帝国最強クラスの傭兵団だ。隙を見せればさっきみたいに首を飛ばされるぞ」
両手に斧を持ったオークは周りに注意を促す。
「どうやら、貴様は少しは頭が働くようだな」
「黙っておきなネェちゃん、楽に死にたきゃ動かない方が良いぞ」
オークは、その巨体からは信じられない程の速度で右手の斧を横に振る。
ビアンカはバックステップでそれを避け、再び距離を詰め直す。
「まずは足を取るぞ」
ビアンカの鋭い槍がオークの右足に向かって突き出される。
オークは右足前、左足後ろを守るように斧を動かす。
左足を守っている斧が、背後に潜んでいたベレトの長剣による攻撃を防ぎ、強烈な金属音を響かせる。
「おっと防がれたか、勘が鋭いねぇ」
「だが、本命はこっちだ」
ビアンカの槍は足のガードに当たる直前、上の方にズレてその脇腹を鎧ごと貫いた。
「ぐぅ! やるなぁネェちゃん、でも致命死にはなってないぞぉ!」
オークは怯む事なく斧を振り回し、ベレトとビアンカに距離を取らせる。
「流石オーク、頑丈だぁ」
「……次で決めようか」
ビアンカとベレトはオークの前後から挟み込むように飛びかかる。
「甘いな」
オークは二人に向かって両手の斧を振り下ろす。
二人はその攻撃を頭上で受け止める。
「ベレト、頼んだ」
「あいよっ」
ビアンカは斧を受け止めた体勢のまま、オークの体に蹴りを入れる。
その一撃は鎧によって防がれ、ダメージにはならないものの、僅かにオークの体を揺らす。
刹那、僅かな隙をついてベレトが斧を受け流し、そのうなじを切り裂いた。
「ぐぅぅ……ブラッドダンス副隊長のこの俺が、人間に遅れを取るとは…………」
「アンタ結構強かったよ、でもちょっとだけ油断したね。流石に二人相手にするのは厳しいんじゃない?」
オークはその場に倒れ、それ以上言葉を発する事はなかった。
「さぁて、他のみんなは大丈夫かな?」
ベレトは後ろを振り向き、他の隊員の方を見る。
そこには、ほぼ無傷の隊員達と、無数の魔族の死体があった。
数でも体格でも不利だったネビュラスカイは、ブラッドダンスに余裕をもって勝利していた。
……だが、まだ完全に勝利したわけではなかった。
「いやー素晴らしい、私の手駒達をこうもあっさり倒してくれるとは。お陰で今宵は上質な血が飲めそうだ」
森の奥から一人の男が現れる。
金髪で白い肌をしており、貴族が着るような豪華な服を着ている。
その顔は薄ら笑いを浮かべており、優しさと恐ろしさの両方を感じ取れる。
「……貴様がブラッドダンスの団長か?」
ビアンカは冷静に問う。
「まあ、便宜上はそうなっているな。他の奴らは私の駒に過ぎん、今回は全滅させられてしまったが、また適当に金で雇えば良い」
「そうか……それで、我々に何の用だ?」
「キミ達の血が飲みたい、私は強者の血を求めている。キミ達の強さは素晴らしい! どうか私の血肉となって、私の中で千年の時を共にしようではないか!」
吸血鬼の男は興奮気味に話す。
「お断りだ、私にはやるべき事があるんだ」
「そうかそうか、残念だ。では、死んで貰うしかなさそうだな」
ビアンカの言葉を聞いて、吸血鬼の男は少し悲しそうに上を見上げる。
そして、右手を上に上げ、何かを唱えた。
「夜の神よ闇の神よ、太陽照らすこの大地に僅かな暗闇をもたらし給え、
その瞬間から、みるみるうちに周囲が薄暗くなる。
「……初めて見る魔法だな」
ビアンカ達は警戒を強める。
「いやぁすまない、吸血鬼は日光が苦手でな、少し抑えさせてもらった。では、始めようか」
吸血鬼の男は両手に血色の剣を作り出した。
「他の隊員は手を出すな! こいつは私とベレトでやる」
「仲間想いの良い判断だ、だがどちらにせよ私には勝てんよ」
その言葉を言い終わると同時に、吸血鬼の男は瞬く間に距離を詰める。
(速い! 体が動かない!)
血色の剣を振り上げ、ビアンカを斬りつける。
しかし、その攻撃は隣にいたベレトによって弾かれる。
吸血鬼の男は一瞬にして距離を取る。
「ほう? 男の方は中々良い反応をするではないか、これは楽しめそうだ」
「ビアンカには指一本でも触れさせねーっつうの」
ベレトは剣先を吸血鬼の男に向ける。
「面白い、果たしていつまでその余裕が持つかな?」
今度は、ベレトの後ろに周り込み、素早く切り上げる。
ベレトは視線を動かす事なく、後ろからの攻撃を剣でガードする。
「完全な死角からの攻撃も防ぐか、素晴らしい」
ビアンカが咄嗟に槍を突き出すが、吸血鬼の男には当たらない。
それどころか、突き出された槍の上に乗り、ビアンカを見下ろした。
「キミも弱くはないが、少し期待外れだな」
冷静沈着なビアンカの顔に、怒りが見え始める。
吸血鬼の男は槍から飛び上がり、二人から少し離れた場所に着地する。
「良いかビアンカ、落ち着くんだ。あいつは“二人で”仕留めるぞ」
ビアンカはその攻撃を聞いて、深呼吸をする。
二回程息を吐いた後には、怒りの表情は消え、いつもの冷静さを取り戻していた。
「分かっている、“二人で”確実に仕留めよう」
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