第14話 大きな一歩
後日、ベレト達の目撃により判明した夜の傷跡の情報は、ホワイトオーダーに報告され、全ての衛兵と傭兵、騎士団に通達された。
「凄いなベレト、どうしてヤツが農村部に現れると思ったんだ?」
ビアンカはコーヒーを片手に、上機嫌で訊ねる。
「んー、勘っていうのもあるけど、最近は裏路地や貧民街での被害が多かったからさー。その辺に警備が集中してる隙に農村部の方襲いに来ると思ったんだよ。まあかなり運が良かったっていうのが一番ですかねぇ、ハハハッ」
「ふむ、なるほど……お前にしては論理的な考え方だな」
「お前にしてはってなんだよぉ」
二人は仲が良さそうに会話している。
その姿は、まさに相棒同士というのが相応しいだろう。
「これは我々が夜の傷跡を討伐する日も近いな」
「おう、パパッと見つけてチャチャっとやっちゃおうぜ!」
「うむ……それはそうと、先日、ホワイトオーダーより新たな依頼が通達された」
「ふーん、内容は?」
「トラス平原東部、帝国と魔王国の国境付近で、魔王国所属の傭兵団、ブラッドダンスが不審な動きをしていたらしい。仕事内容はそれの調査、そして帝国に脅威となる事が判明した場合は排除する事だ」
「魔王国の傭兵団が国境付近をウロついてるわけか……確かに気になるな」
「出発は明日、他の隊員にも通達しておけ」
「はいはい了解!」
そして次の日、時間は夕暮れ、場所はトラス平原の東部。
果てしなく広がる野原の真ん中を、ネビュラスカイの一団が歩いている。
人数は十人程度、ベレトとビアンカ以外はリュックを背負っている。
「この辺りか……目印になるものがほとんど無いな」
「まぁでも、これだけ開けていれば、誰かいてもすぐ見つけられるでしょ」
「そろそろ日も落ちる、少し早いが野宿の準備をするか」
「そーだねぇ、今日は俺の班が先に見張りするよ」
「ああ、頼んだ」
一行はその場にテントを設置し、一晩を過ごす。
ベレトは見張りの最中、テントを背に座り、目を瞑っていた。
「副隊長、微動だにしないぞ。寝てるんじゃないか?」
「シッ! 聞こえるぞ」
ベレト班の隊員達は、少し離れた場所でヒソヒソと会話している。
なお、ベレトは本当に寝ているため、この会話には気づいていない。
特に何も起きる事なく次の日を迎え、一行は再び平原を歩き出す。
何もない平原をひたすら東に歩いていると、少しずつ周囲に木々が見えてきた。
そして、進むにつれて周囲を囲む樹木の数も増えていく。
更に歩き続けると、前方に巨大な樹木が鬱蒼と茂る大森林が見えた。
「……アレは間違いないねぇ」
「ああ、アドラ大森林だな。つまり、我々は既に魔王領に足を踏み入れているという事だ」
ビアンカとベレトは足を止めて、周囲を警戒する。
他の隊員も立ち止まり、周りを見回す。
「なーんか見られてる気がするねぇ」
「気づいたか。恐らく、私達が探している相手であろうな」
隊員達は、空気がピリピリと張り詰めていくのを感じていた。
すると、茂みの奥から、リザードマン、オーク、ライカンスロープといった、人型ではあるものの、人間から大きく離れた姿をした亜人が数十人と現れる。
全員が体格に合った赤い重鎧を装備しており、頭だけ露出している。
各々、槍や剣、斧やハンマーなど、多様な武器を手に持っている。
「おやおや、これは大物が釣れたねぇ」
前から現れた、槍を持ったリザードマンはしたり顔を見せる。
「ネビュラスカイか、噂は聞いてるぜ、帝国の傭兵の中ではかなり強いんだってな」
横にいる、ハンドアックスを両手に持った、巨大な体をしたオークが口を開く。
「でもここは魔王領、入っちゃった事を後悔して、じっくり踊りながら死のうかぁ」
ネビュラスカイの一団は荷物を置き、武器を構える。
「貴様らがブラッドダンスで間違いないな?」
「もっちろん」
ビアンカの質問に、リザードマンが回答する。
「一応聞いておこう、貴様らの目的は何だ?」
「はははっ、簡単だよ。領地に入った連中を殺してるだけさぁ。魔王国は力が全て、郷に入れば郷に従え、特に恨みはないけど、オデラの娯楽と飯のために死んでもらうよぉ!」
リザードマンは、その言葉を言い終わると同時に、その首をベレトによって刎ねられる。
勢いよく血が噴き出て、重量感のある鎧と共に胴体が地面に倒れる。
「そうかそうか……いやぁ本当に良かった。最近はどうも運動不足なものでな、今日は思う存分暴れられそうだ…………全員、いくぞ!」
ビアンカの号令により、ネビュラスカイの隊員達は、一斉に攻勢に出た。
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