第2話 業務前夜
二人が戻ってくるなり、シトリーがアルベルに駆け寄る。
「ほら見なさい! この魔術師スタイルを!」
「うんうん、カワイーネー」
シトリーは茶色のワンピースに水色のローブという、全体的に明るい雰囲気の服装になった。
ローブは膝下まで覆っており、靴は革製のロングブーツを履いているようだ。
アルベルは、シトリーから視線を外し、イーリスの方を見る。
「うっ!」
思わずアルベルは、何かに撃たれたような変なリアクションを取る。
そんな様子を見たイーリスは、心配そうに駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか? もしかして、服が似合ってなかった?」
「いや、そんな事ないよ、最高に似合ってる。あまりに可愛すぎて気絶しそうになっただけさ」
アルベルは冗談混じりに(冗談ではない)笑った。
イーリスは淡い黄色のセーターの上に白いジャケット、黒いミニスカートに黒いロングソックスとシューズ。
一見統一感のないコーディネイトだが、動きやすく、シルエットも良く、何よりアルベルにはドストライクであった。
「良かった、大丈夫そうだね」
イーリスはアルベルの冗談を聞いて、安心したように微笑んだ。
その笑みを見て、アルベルは思わず顔を隠し上を向く。
「なーに? 私のイーリスちゃんが可愛くて悶絶してるの~?」
「……違う…………」
シトリーのからかいに対して、アルベルは力なく否定した。
場所は戻り、最初の事務所らしき部屋へと帰ってきた。
「そういえば、この部屋って何なの? 外観は結構大きい建物だけど、この部屋しか入った事ないよ?」
シトリーは首を傾げながら問いかける。
「この建物は色んな事業者の事務所が入ってる建物なんだよ。それでここは我らが傭兵団、“フラグメント”の事務所ってわけさ」
アルベルはソファーに勢いよく腰掛ける。
シトリーとイーリスも続いて座る。
「さて、仕事の話をしよう。仕事なんかしたくないって? 俺も仕事は嫌いさ、でもしなければならない。美味しいご飯を堪能するためにはお金が必要だからね」
「前置きは良いから早くしなさい!」
「じゃあ単刀直入に言おう、明日の夜に盗賊団に襲撃をかける。メンバーは君達二人、装備は後で支給しよう」
「あっ、私は武器いらないですぅ」
シトリーは流れを断ち切るように武器の支給を断る。
「……もしかして、君は本当に魔術師なのかい? 獣人の魔術師なんて聞いた事ないんだけど」
アルベルは怪訝そうな顔でイーリスに訊ねる。
なにしろこの世界では、獣人は魔法が苦手な種族として知られているのだ。
ついでに頭が悪い種族だとも思われている、失礼だな。
「はい、シトリーは色々な魔法を扱う事ができますよ」
「そうか……まあ、それも明日には分かる事だ」
「まだ私の事疑ってるのね? 明日は凄いの見せてあげるんだから!」
シトリーは興奮したように立ち上がる。
「まあ落ち着いてくれよ。とりあえず、イーリスには武器を渡しておこう」
そう言ってアルベルは立ち上がり、部屋の隅に置かれた、様々な武器が立て掛けられた樽の前に立つ。
「スピア、レイピア、ハンドアックス、大体の近接武器があるけど、何が良い?」
「えっとじゃあ、ショートソードにしようかな」
「ベターな選択だね」
アルベルは鞘に収められたショートソードを取り出し、イーリスに手渡す。
「ほいよ、鞘についてるベルトを使えば腰に装備できるから、仕事の時は身につけておくと良いよ」
「ありがとう、アルベル」
「気にしなくて良いよ。さて、今日は話ばかりで疲れただろう、この建物を出たら、向かいの建物が宿になってるんだ、そこの二階ニ号室を取ってあるから、今日と明日はそこを使ってくれ。明日の午後までにここに来てくれれば良いから、それまでは自由にしてて良いよ、では今日は解散!」
イーリスとシトリーは宿の指定された部屋に入る。
部屋の中はとても質素で、木の床に白い壁、部屋の中心にはテーブルと椅子、両脇にはベッドが一つずつあるだけだった。
窓から見える景色は既に薄暗く、テーブルの上に置かれたランプの光が部屋全体を照らしていた。
「はい、これ食べて」
シトリーはイーリスにパンが入った袋を手渡す。
宿に入る前に買ってきたものだろう。
「ありがとう」
イーリスはそれを受け取り、ベッドに腰掛けて食べ始める。
食べてる最中、反対側のベッドに座るシトリーの方に視線を向ける。
「シトリー、あの男は信用できそう?」
「話を聞いた感じ、ウソはついてなさそうなのよね。待遇も悪くなさそうだし、しばらくは様子見で良いと思うわよ?」
「私も同じ意見だね、むしろ奴隷に対して警戒心が無さすぎるようにも思える」
シトリーはベッドに寝転がり、布団を体に巻く。
「まあ、何かあっても私が何とかするわ。ううん、眠い……そろそろ寝ようかしら」
「わかった、私ももう寝るよ」
イーリスはランプの火を消し、ジャケットを脱いでベッドの上で横になる。
「おやすみ、シトリー」
「ええ、おやすみ、イーリス」
二人は静かに眠りについた。
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