第一集 玉蘭、華清宮にて毒妃に出逢う㉓
「どうしてと、聞きたいのは私の方です巧鈴」
部屋に
「ほ……本当に巧鈴が、高華妃様に毒を盛ろうとしたのですか?」
震える声で聞いたのは、茴香だ。扉の前に立つ二人を見て、わっと巧鈴が泣き崩れる。
「違う! 違います! 私は華妃様には毒など盛っていないわ!」
「ほう? では、これが毒でなくてなんだと言うのじゃ?」
けれどそんな巧鈴を見下ろし、毒妃が声を上げて
「知らなかったとは言わせぬよ、巧鈴。お前が使った毒は『
「そんな……」
「本当に恐ろしい毒じゃ! 大きな家畜を殺してしまうほどの毒じゃ! ようく見よ、こんな小さな身体の華妃であれば、口にすればあっさり血を吐いて死んでしまうところだったのに……そなたはそれでも違うと申すか?」
「ちが……ちがいます、本当に……」
「本来ならば、家畜も避ける毒草じゃ。花や実、葉、根、花粉に至るまで毒がある。獣たちは本能でそれを避けるものよ。だが
残酷な毒の
後宮の毒妃が、
巧鈴はガクガクと震え、そして助けを求めるように僕を見たが、ドゥドゥさんはそれを許さずに、ぐいと己の方を向かせた。
昼でも、夜でもない色の
「
「違います! 華妃様じゃありません! 私が殺したかったのはそこの女官達です!」
とうとう、巧鈴が夜を引き裂くような声で叫んだ。僕は目を伏せた。
「そうね……わたくしにではなかったのよね」
そうだ──巧鈴はわかっていたのだ。華妃が受け取った菓子は、華妃が食べる前に必ず、周りの者が毒見をすると。
それも、脅迫状が出されている今であれば、本当に信用出来る人間が食べるはずだと。
「……茴香に食べさせるとは思いませんでしたわ。桜雪が自分で食べるか、そこの気味悪い
そう巧鈴が忌々しげに言うと、桜雪は
「高華妃様、どうしてこんな
「
叫ぶように問われ、僕は静かに答えを返した。巧鈴は悔しげに唇を
「……理由が何であれ、私は貴女への逆心は
「わかっているわ。わたくしを本当に殺したいのなら、わざわざ脅迫状も、死んだネズミも必要はなかったはずです。でもそうじゃなかった──毒妃様が言っていました。『犯人は派手好き』だと。つまり、わざわざ周囲に、わたくしが狙われていると知らしめる必要があった……最初から狙いはわたくしではなく、わたくしを守ろうとする人間だったのね」
長く後宮で働く巧鈴なればこそ、桜雪が絶対に華妃を
てっきり、犯人は外にいると思っていた。でも逆だった。協力者が外にいたのだ。
そう──僕の手紙を忠実に、秘密裏に届けてくれる、彼女の
夕べも長安まで、馬を走らせてくれたから、彼の
「貴女に命じられて、彼があの毒を準備したのね」
巧鈴は弱々しく
「昭儀様の衣装の件、そしてわたくしへの殺害予告に添えられたネズミ……。脅迫状には、貴女の気持ちが溢れていた。貴女の憎悪が。貴女が本当に苦しめたかったのは、わたくしではなく『桜雪』だった」
途端に巧鈴は顔をくしゃっとさせると、弱々しく
「華妃様に……不満があるとしたならば、貴女が私ではなく、桜雪を傍に置いていることです」
低く、さめざめと巧鈴が吐き出す。
「桜雪は自分が出世する為に、私を陥れたんです。ネズミにわざと昭儀様の衣を
「誤解だわ! 私が仕組んだりしたわけでは……」
「貴女の言う事なんて信用出来るものですか! 散々私を踏み台にして!!」
困惑する桜雪と、怒りを
絶牙が腰の剣に手をかけて、『いかがいたしますか?』というように僕を見たが、僕は首を横に振った。
その解決法は、他でもない翠麗が許さないだろう。
「だからといって、どうして毒を? 貴女の仕事ぶりなら、いつかわたくしは、貴女を重用したでしょう……何故待てなかったの?」
「充分待ちましたわ! 待って……待ち続けて……もう待てませんでした」
そんなある日、
「よくよく話を聞いて、『これだ』と思いました。以前にも、祖父から同じような毒草で、家畜が大変な目にあった話を聞いた事があったんです」
馬酔木の花は、美しいけれど恐ろしい。
その毒は蜂たちの集めた
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