第74話 きさらぎに雨が降る⑮
放課後、下校した
真白は大きな墓石の前に花を置く。その墓石には、
真白と澄人はそろって黙祷を捧げる。
情報部の調査により、六花による情報漏洩が明らかになった。
本来であれば、協会が管理するお墓に入れてもらえるはずがない。処理班によって回収された六花の遺体は処分されるはずだった。
だが、真白たちの訴えを聞いた
確かに六花は任務の情報を漏らしたが、それによる死者はいない。最後に真白をかばったこともある。心変わりがあったのかもしれない。それに、彼女のこれまでの功績を考えれば、我々で弔ってやってもいいのではないか、と。
ペイルホースの工房を強襲したグループは、複数のゴーレムに襲われるも、死者を出すことなく任務を遂行した。
久野座が保安部の戦力を過小評価したのか、六花があえて弱く見積もった情報を伝えていたのかはわからない。
なんにせよ、六花の情報漏洩によって発生した死者はゼロだったのだ。
今回の任務での死者は、六花だけだった。
六花の埋葬について、最終的には協会の泉間支局長が許可をくれた。
六花はお墓なんて望まないかもしれないが、そこは生者のわがままと許してもらおう。偲ぶ場所がないのは、寂しいから。
真白も死んだらおそらくここに葬られる。文句はそのときに聞けばいい。
「本当は、お母さんと一緒のお墓の方がよかったかもしれないけど……」
澄人が墓石を見つめて言った。
「……どうでしょうか」
任務とは別のところでの死者もいた。
六花の母だ。
真白たちの任務中に、六花の母の生命維持装置が止められていたと病院から連絡があったそうだ。
防犯カメラには、止めた人物が映っていた。
たぶん、あえて映ったのだと思う。
止めたのは、六花だった。
六花は、久野座暗殺任務に赴く前に、自分の母親の生命維持装置を止めたのだ。集合時間ぎりぎりで来た理由が、それでわかった。
六花は、保険をかけていたのだろう。真白が久野座になびかなかったり、時を戻す秘術が存在しなかった場合の保険を。
どうあれ、六花は母親と決別するつもりだったのだ。
「――澄人は、六花に自分の過去を話していれば、結果が変わっていたかもしれないと言いましたね」
「うん。言った」
「きっと、六花は揺るがなかったと思います。私たちがなにを言おうと、自分の意志を貫き通す。六花はそういう人でした」
「……そうだね」
澄人は微笑みを浮かべる。
「覚えてる? ぼくたちが初めて一緒に任務を命じられたときのこと」
真白も微笑みを返す。
「覚えてます。支倉さんは澄人をリーダーにって決めてたのに、六花は自分が絶対にリーダーをやるって言って譲らなかった」
紆余曲折あって、結局、六花がリーダーになったのだが、結果として大正解だった。六花は優れたリーダーシップを発揮したのだ。
以来、三人で任務に赴く際には必ず六花がリーダーを務めた。真白も澄人も異論はなかった。
六花は、人の長所を引き出すのがうまかった。人をよく見ていたに違いない。
「真白、このあと時間ある?」
腕時計を見て、澄人は尋ねる。
「ありますよ」
「だったら――」
「六花の好きだったハンバーガーショップですか」
真白は先回りをして言った。
澄人が目を丸くする。
「よくわかったね。超能力者みたいだ」
「精神感応は使えませんけどね」
二人は笑い合う。
「じゃあ、行こうか。ハンバーガーは久しぶりだな」
「私もです」
そうして墓地を出る直前、足を止めた真白は振り返って墓石を見つめた。
あのとき、六花が久野座からかばってくれなかったら、あの墓の下に入っているのは自分だったに違いない。
六花はかばった理由を教えてくれないまま逝ってしまった。
いつか、同じ墓に入ったら教えてくれるだろうか。
「どうしたの?」
ぼんやりと立ち尽くしていたら、澄人が心配そうに尋ねてきた。
「――いえ、お腹が減ったなぁって。ハンバーガー、二つくらい頼んじゃいたいです」
「茉理さんのごはんが食べられなくなるよ」
「そっちも食べます。育ち盛りですから」
「そうだね。真白、この一年でずいぶん背が伸びたもんね」
「そのうち澄人を追い越しますよ」
「どうかな。ぼくも伸びてるからね」
そんなことを澄人と話しながら、今度こそ墓地を後にする。
お墓に入るのはいつになるかわからないけど、できるだけ先延ばしにするように生きようと思う。
じゃないと、きっと六花に怒られる。
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