第11話 青い屋根の塔・斗樋の部屋(3)
衝撃に遅れて、顔面に激痛を感じた。
「痛って……」
鼻のところを手で押さえる。本当に痛いときは声なんて上がらないものだ。これを悶絶と言う。
平手を顔から離すと、赤い筋が流れ落ちた。
「大丈夫かー?」
さっきの焦りようはどこへやら。斗樋は机に手が当たった程度かのように、間延びした声で言った。お前今、半笑いだったな?
足元を見ると、さっきまでなかった一冊の本が、開かれた状態で落ちている。おそらくアイツが投げたのはこれだろう。
「何なんだよ! お前!」
立ち直った俺は件の少女に向き直る。
「うるさい! ここは日本の東京だって、尾道って男が言ってたし!」
「ハぁ? 誰だその男。知らんがな!」
「嘘つけ! どうせお前もあの男の知り合いなんでしょ⁉」
「おい斗樋! 何モンなんだこの女‼」
斗樋に怒鳴る。しかし意に介する様子は無く、手元のタブレットに目を落としたままこちらへ振り向いた。
「大まかな被害状況が把握できた。言ってもいい?」
「……だからこの女は」
「堅勢がここに連れてきた。日系外国人であることの他に分かることは性別と表側の人間であるということだけ。……言ってもいい?」
斗樋の丸眼鏡の奥で眼光がギラついた。凄まれたので黙る。
贋作十八番歌「暴躍」 三弐肆羽鳩 @hanaasagi193
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