第10話 青い屋根の塔・斗樋の部屋(2)
斗樋は暫くの間、モニターに目を走らせたり、各所に電話をしたり、はたまたカラスを呼んではひとりでに何かを伝えてダクトに送り返したりと、いろんなことをやっていた。勿論大まかには、その行動の一つ一つにどんな意味があるのか知ってはいるが、その細かい内容なんかはいちいち覚えたりしていない。俺でもその程度の認識なのだから、今目の前に無言で立ち尽くす少女にとっては何が起きているのかも全く分からないだろう。
斗樋がそんなことをやっている間、は退屈になり近くの紙を拾って紙飛行機を折ったりして遊んでいた。飛ばした紙飛行機はほとんど斗樋の方に向かっていき、四度目には斗樋によって片手で握りつぶされた。そんなことをして数分が過ぎる。
退屈の慰みにあのクソジジイでもいればよかったが、ちょうどいいタイミングで離席しているまったく、いけ好かない爺さんだ。
ふとした時、横目に見やると、件の少女と目が合った。いやまあ、始めっから視線を感じていたから、ずっと見られているんだろうなとは思っていたけれども。
一体この少女が何者なのか、それを斗樋に尋ねようとしたけど斗樋は今忙しい。でも、俺は勝手にこの少女に話しかけることはしなかった。と言うより、この少女に対してある種の違和感を感じていた。
この少女は、俺がここにきてから一言も言葉を発していないし、なんなら目と体の方向を変える以外に全く動いていないのである。
普通、意図せず贋作街に紛れ込んだ人間は
①突然のことにうろたえ、最悪発狂しだす
②とりあえずその辺を歩き回る
③加えて写真を撮り始める
大体がこれらに分類される。しかし、彼女はこのどれにも当てはまることなく、ただ立っているだけなのである。
今までそれなりに迷い込んだ人間を見てきたが、こんなに静かなのはかえって不気味だ。しかし、今は他にすることもない。外に出たってまた追いかけっこが始まるだけだ。少し会話でもしてみるか。
……そういえばさっき、斗樋はこの少女は境界地点である〈空白〉の近くに居たと言っていたな。
「なあ、君。君はさっきまでどこにいたんだ? ここがどこか、分からないだろ」
なるべく平生を装って声をかける。一瞬斗樋をみたが、こっちには視線一つ干渉してこない。仕事に集中しているのか、それとも放任主義なのか。
「私はさっきまで地上にいた。でも、あのおじいさんにここまで連れてこられた」
「爺さんって……いわ爺のこと?」
俺が尋ねると、少女は首を縦に振った。
想像していたよりも声が少し高いな、などと思考が巡ったが、気にするところはそこじゃない。俺の質問に一つ答えただけで、再び少女の口は真一文字に引き結ばれた。
「あー……いや、そうじゃなくてな? ほら、君は日本ってとこに居たんじゃないのか?」
少女は、今度は首を横に傾げる。……俺も首を傾げた。
「ここも日本でしょ?」
「……いや違うぞ? ここは……ちょっと説明が面倒だけど、とにかく日本じゃない」
「嘘つき!」
「ぶべっはぁ⁉」
唐突に起きたことに、視界が明滅する。なんだ、何が起きた⁉
頭が追い付かなくて、なんとなくだが斗樋も俺のことを呼んでいる気がする。コイツが俺を心配するなんて大概珍しい。斗樋にとっても予想外と言うことだけは理解した。
……あれ? 痛い?
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