第9話 青い屋根の塔・斗樋の部屋
「やあ小太郎、遅かったね。いわ爺、通していいよ」
デカいモニター越しに、薄暗い部屋の中央に鎮座した細身の男が声を発する。その一声で、さっきまで煩かったクソジジイの音量が下がった。下がっただけなので未だに愚痴っている。うっとおしいことこの上ないが、無視するうえでは静かに越したことはない。
「ここに来るのは久々だな。相変わらず埃っぽい」
「まあね。僕もこんなところ、非常時にしか使わないよ。回線遅いし、暗いところは目が利かない」
「よくもまあ、こんな光のない部屋に客を招けるもんだ」
「仕方ないでしょ、そういう生き物なんだから」
黒い長髪が視界に映る。その先をたどると、端正な顔と特徴的な丸眼鏡が見えた。上下ジャージと下駄と言う組み合わせは意味わからんが、残念系イケメンであることは確かだ。
そしてよく見ると、めくられたジャージの脛の部分には、人間のムダ毛ではなく、黒い羽毛のようなものが生えている。俺が気持ち悪いと思わないのは、きっとここが贋作街だからだろう。
奴こそが議員の一人。そして俺が探していた泉谷斗樋本人である。
俺は愚痴の途中で横目に珍客を見やる。うずくまって隅っこ暮らしをしている奴じゃない。強い眼光をこっちに向けている、少女の方だ。俺は目を背けた。眼光に怯んだのではない。
……怯んだわけではない。。。
典型的な制服を着ている。女子高生のようだ。
情けない目を向けるな。女子高生相手に怯んだわけではないのだ。
「図々しさは健在なようで何よりだね。とにかくまあ、そこらへんに座りなよ」
丸眼鏡の向こうで、斗樋が目で指示した。斗樋はキーボードに打ち込みながら、何やら作業中。と言うより、仕事中と言った方が正解かもしれない。こんな狭い部屋で客人を招きながら、だ。言うまでもないが、その状況が更にありありと非常時であることを物語っている。
クソジジイは俺と斗樋の問答中に外に出ていった。果たして野放しにしていていいのか分からないが、斗樋が何も言わないからいいのだろう。俺は知らん。
この部屋に椅子なんてものは、斗樋の座っているもの以外に存在しない。俺はそこらへんに散らばっていたバインダーやファイルをかき集め、それを重ねて上に座った。バランスは悪いが、無いよりはマシだ。
「なあ、斗樋」
「後にしてくれない?」
「…………」
即答されて少し機嫌が悪くなった。斗樋から視線をそらし、今度は隅っこ暮らしに目を向ける。こっちはこっちで何もしゃべることなく、動くこともなく体育座りで置物と化している。
スラックスに革靴、シャツにベストと、この部屋の主よりははるかにまともな恰好をしているが、ぼさぼさの短髪と付着した埃によって台無しだ。ちなみに、女である。
勿論面識はあるのだが……ほっとこう。
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