第7話 三番地区・青い屋根の塔

 体力のあるやつを撒くなら、入り組んだ細い道の方がいい。堅勢を残して俺は、贋作街の三番地区に紛れ込んだ。

 依然として、建物の高さは日差しを遮るほどに高く、しかも密集しているからさっきまでいた四番地区よりも暗く感じる。空気もどこか陰気だ。

 レンガ造りの中世ヨーロッパのような塔や建物が立ち並び、上空には木製の空中回廊が蜘蛛の巣の様に張り巡らされている。光景としては、異世界よりも異世界だ。……贋作街ここも、れっきとした異世界になるわけだが。

 日本家屋と昭和のモダン建築が立ち並んだ、節操無しの違法建築が林立する四番地区よりも統一感はある。隠し物を隠すにはもってこいかもしれない。


 日の光と追手から隠れるようにして、細い道を通りながら、昼間っから煙たい焼き肉屋を右折。


「おーお、お祭り大臣。なんでぇ、めずーらしく昼間っからいっそがしそうだなぁ」


 本当に。昼まっから酔っ払いに絡まれるとは一体どういうことだ? こっちはめでたく昼間……まだ朝じゃないか。朝っぱらから忙しいってのに、この飲んだくれはとっくに出来上がっているのだ。ふざけんな。

 酔っ払いをガン無視して直進。大通りに面した道は騒がしい。いっそ紛れ込んだ方が安全かと思ったが、もしもと言うことがある。直進してきた道を引き返し、途中の曲がり角を曲がった。

 寝ているホームレスを起こさないように、右折、右折、その次左折。とにかく四番地区外れのひと際高い塔を目指す。


 贋作街はもはや庭と変わらん。どれだけ追手がいようが、この街にいる以上俺の敵ではない。

 そしてたどり着いた、贋作街外れの塔。通称・青い屋根の塔。ちなみに屋根の色は錆色。どういうことやねん。

 目指していた泉谷斗樋の居場所はここだ。しかし、奴のところにも追手が来ているに違いない。

 俺は塔のとおりに面していない裏口から入りこむ。中は外見に反して高級マンションのような……なんてことはなく、普通に汚い。電灯がついていなければ廃墟と大差ない。

 エレベーターは稼働している。しかもちょうど一階に止まっていた。俺は迷わず、エレベーター横の非常階段の扉を開ける。


 赤いカラーコーンとテープで「立ち入り禁止」と規制されているバリケードを無視し、非常階段を下った。

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