第4話 贋作街・アパート六階(4)
俺はカーテンの閉め切られた窓に向かって走り出す。それと同時に、ひと際大きな破砕音が背中の方でがなる。まるで爆発だ。
もはや暴徒たちは何を喋っているのかもわからない。彼らに数秒目を目をくれてやることも無く、カーテンを巻き込みながら蒼天の下、天照らす日の光の袂へと繰り出した。
六階。
寝惚けて忘れたわけではない。ここはアパートの六階である。生身の人間が若干30メートル以上の高さから飛び降りて無事で済むわけがないということも重々承知だ。
しかし、ここは悪名高き贋作街。人がまともでないのなら、その人間が作った建造物の面々もまともで済むはずが無いのだ。
窓ガラスの破片が後ろから飛び散ってくるよりも早く、隣の建物の瓦屋根に飛び移る。裸足で飛び出してしまったので、ガラスを踏んだらそれだけで大惨事なのだ。
そして、どうして昭和のモダン建築のアパートと、瓦屋根の四階建て日本家屋が隣り合わせになっているのかと言うと……
「それが、贋作街の人間のセンスだから……だろ?」
俺の思考に介入するように、後ろから声が聞こえた。
俺は今現在、大量の輩に追いかけられている。それはもう、凄惨な光景が後方には広がっていることだろう。二か月家賃を滞納しているというのに、どう大家に説明すればいいのだ。
……いや、そんなことはどうだっていい。そんな面倒なことになっているのだから、後ろを向いている場合ではないのだ。しかし、俺は後ろを見た。その声には、聞き覚えがあったのだ。
「堅勢、お前どっから……」
化野堅勢。くたびれた黒い長袖シャツの上にノースフェイスの青いジャケットを着、色の落ちかかったジーパンをはいて佇む変人だ。
「変人」、という言葉は彼の服装について言ったのではない。俺から見て右斜め後方の瓦屋根の縁からよじ登ってくる、その状況に対して言ったのだ。
「話は後……いや走りながらだ。今はとにかく逃げるぞ」
「走るったって、なんでお前も走る必要があるんだよ」
「いやね、今朝……と言っても今さっきこんなものが郵便受けに投げられたんだよ」
堅勢の手元を横目で見る。ひらひらと振る所為で見にくいが、そこには破れた封筒と、開くときに一緒に破いたのだろう。同じ線に破れた便箋があった。
そこになんと書かれているのか。想像に難くない。
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