第2話 贋作街・アパート六階(2)
「いるのかぁ、眞島六紋‼」
「寝惚けてんじゃねぇ‼ ここ開けろやぁ‼」
突如、玄関の戸を頻りに叩く音と共に怒号が飛び交う。おかげで輩のお望み通り、俺の目は一瞬で覚まされた。
「一体何事だ⁉」と思わないわけでもない。しかし、ここは贋作街十八番地区。とてもじゃないが、治安のいい街とは言えない。暴徒が暴れだすことなんざ日常茶飯事だ。だから比較的、何が起こってもおかしいわけではないのだが……。
そういった思考に陥るあたり、俺もどうやらキてしまっているらしい。この街の瘴気に侵されているのだ。
ただ、心当たりがないことは確かだ。俺はこの街で誰かから恨みを買うような軽率な行動はしてない。唯一原因があるとすれば、それは酔い潰れて意識を失っている最中だ。……まさかな? まさかそんな筈はない。ない筈だ。
ともかく、起きてしまったものは仕方がない。とにかく今はここから逃げることが先決だ。
聞こえた声は二人だが、その後ろにも人の気配を感じた。この書面の内容が事実なら、今現在俺は町中を敵に回しているということになる。こりゃ大変なことになりそうだ。
俺は手繰るように近くに転がっていたヘパリーゼと財布をトレーナーのポケットの中に突っ込む。
「えーっと……財布、財布はどこだ?」
そして次は財布だ。俺は鞄の類を持ち歩かない。だから家に帰ってから荷物をそこらへんに放り出す習性と相まってよく物をなくす。
「おい、誰かバール持ってこい‼」
「そんなもんねぇよ。バットで何とかしろ!」
悠長に財布を探している場合ではなさそうだ。いよいよバットを持ち出されたらこの玄関扉も二分と持たないだろう。
足元にあったスマホを取り上げ、タイマーを二分でセットする。画面はバリバリに割れている。正直、どうして作動するのかも分からない代物だ。そして再び、財布を探しに戻る。
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