贋作十八番歌「暴躍」

三弐肆羽鳩

第1話 贋作街・アパート六階(1)

 朝。

 郵便物を投函された音で目覚める。

 昨日呑みすぎたせいだ。玄関の少し上がったところで空き缶を包む用のブルーシートに包まって爆睡していた。

 目を擦りながら起きあがる。おそらくこの間、十二秒。

 郵便受けを弄り、積みあがったチラシの上の真新しい封筒を手に取る。覚束ない手つきで封を破いた。

 四畳半のアパートの一室。潰れた空き缶や回収日を逃したゴミが適度に群を為している。床暖なんてものはない。十一月の玄関先はかなり冷え込んでいた。頼り甲斐のない二の腕を触ってみると、あまりよろしくない感じの温度をしていた。郵便物の投函からここまで、およそ三十秒。

 勢い余って封筒の中身までも少し破いてしまった。それを開きつつ、目脂めやにのせいで開かない瞼を根性で開いて読んだ。顔を洗っていないのだから当然だ。でも俺は、この時顔を洗いに行かなくてよかったと切に感じた。


【一分後、町中がお前を追いかけだす。逃げろ!】


 怪文書にも怪文書。その文面は一見するとB級ホラー映画の序章の様だが、見方を変えればアドベンチャーゲームのミッションカードの様にも思える。どっちなんだろう、と半覚醒のまま思考を巡らせる。嘘だ。半覚醒なのだから思考が巡るわけがない。その証拠に、この時俺が取るべき行動は本来、一つだったはずだ。それを取らなかったということは、やはり寝惚けていたということだ。

 郵便物の投函からここまで、若干五十五秒。

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