第5話

 土の表面を、柔らかい風がすうっと撫でる。すると目の細かい小さな砂たちが、集いながら宙に舞う。目に見えそうで見えないぬるい空気が、整備された母校のグラウンドを包み込んでいる。伊生と弘志は、消えかかっている白いラインに並んだ。シゲ爺は、二歩程横にずれた位置に立ち、杖で砂をいじくり回している。今日は日曜日で、児童も教員も見当たらない。

 二人は、おいっちに、おいっちに、と声を揃えて準備運動を始めた。伊生は、怪我なんて嫌だ、歩けなくなるなんて嫌だ、とぎゃあぎゃあ喚きながら、何度もアキレス腱を伸ばしている。


「ようし、準備はいいか、お前ら」

「緊張するなあ。ギャラリーはシゲ爺しかいないのに」

「俺も脇から大量出汗中だ」

 弘志は、伊生の青い服にしっかりと滲んでいる脇汗を見て、何その量、と顔をしかめた。


「それじゃあ、いくぞ」

 いちについて、ようい、ドン。シゲ爺の、しゃがれた大きな声が、誰もいない午後の校庭に響いた。

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