尻を追う男

@fukkareen

第1話 学の場合 1

人となりは尻でわかる。

世の中には「目を見ればわかる」「働き者の手」など、いろいろな鑑識眼の基準があふれているが、学にとってそれは尻であった。



なぜ母さんはあんなにも僕に無条件に期待できるんだろう?

父さんがこのあたりではちょっとした有力者だからといって大した家柄でもあるまいに、家名を汚さないようにと無理して僕を都心の大学に入れて、僕が受験勉強の燃え尽き症候群で自堕落に大学生活を過ごしても母は僕が何者かになるのを無邪気に信じているみたいだ。

僕がろくに就活もしないで就職浪人が決まった後にも

「経済学部なら公認会計士になるのがいいわよ!」

とかいって通信講座を申し込んでいた。経済学部だから公認会計士というのがいかにも短絡で母らしい。もし僕が入ったのが法学部なら弁護士に、文学部なら小説家に、工学部だったらライン工になることを勧めてきたんだろうか?


公認会計士になりたいわけではないが別に他にやりたいこともないので、地方都市の実家に帰ってだらだらと勉強を続けている。

僕はそんな単調な生活の中で、一つだけ趣味があった。


毎週金曜日の夕方、自転車で30分くらいのスーパー銭湯に行く。そしてサウナの一番後ろのスペースに陣取るのだ。この時間は仕事終わりの男たちで満席になるので、その男たちの尻を観察するのだ。


僕は人の尻を観察するのが好きだ。別にフェティシズムではない。そういう話では平凡に女のおっぱいが好きだ。人の尻を見ると人となりというものがなんとなくわかるのだ。だらしない人間なのか几帳面な人間なのか、優しい人なのか粗暴な人なのか、職業なんかがわかるときもある。高校の頃は尻占いといって友達の間で少し流行った。

サウナで尻を一通り眺めて特徴的な尻を見つけたら重点的に観察をしてあたりをつける。そして観察対象が出るのに合わせて僕も風呂を出て、脱衣所での様子を見たり、時には銭湯から出た後にも少し後をつけてみたりして答え合わせをするのだ。


今日も体を洗って、炭酸風呂にざぶんと使った後、水をがぶ飲みしてサウナに居座る準備をする。さて、今日はどんな尻がみられるかな。僕の期待は、すぐに満たされた。


しかし、尻にウサギのタトゥーを掘った男の人となりなんて僕のデータにないぞ!?

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