第5話 大罪人は魔法を使う②
―――魔法。
それは魔力を用いて世界に干渉し、様々な現象を引き起こす法則である――と言うのが大まかな魔法の概念だ。
実際には他にももっと規則性や法則もあるのだが、そこは大して必要ないし面倒なので省く。
要は魔力があり、ちゃんと操作すればどんな魔法も使える様になるということだ。
属性に得意不得意があるのは、想像力の欠如、あるいは何かしらのトラウマや苦手意識が原因である。
例えば昔、川で溺れたことがあるから水が怖いって人は水魔法が殆ど使えない。
逆に泳ぐのが大好きな人は水魔法が得意と言う事例が多い。
生憎俺にはトラウマもなかったため全属性が使えた。
一方でレインには強烈な水と火のトラウマがあるようだ。
この際はどうなるかなどは分からないが、トラウマくらい克服してみせよう。
―――と、ここまでが俺の前世の魔法の知識で、この世界ではちょっと……と言うか大分違うようだ。
レインの記憶によると、この世界では魔法を発動させるには、スキル? みたいなものと魔力が必要らしい。
水魔法を使うには【水魔法】スキル、火魔法を使うには【火魔法】スキルと言った感じで。
ただそのスキルが有るお陰で詠唱とかすっ飛ばして技名だけを言えば発動するんだとか。
そしてこの体の持ち主であったレインは、何の属性スキルも持っておらず、魔法は無理だと言われていたらしい。
――――――で?
スキルがないからどうした?
前世ではスキルなんてそもそも誰一人持ってなかったんだ。
俺にとってはそれ以外使えなくなりそうだから逆に無い方がありがたいくらいだ。
と言う事でスキルなんて無視して、前世のやり方で早速使っていこうと思う。
この体は才能が全然ないため、普通なら魔力を操作するのにも大変なのだろうが、俺的には逆に昔の体みたいで扱いやすい。
それに操作性に関しては努力すれば1級魔道士くらいまでの実力にはなれるし。
1級魔道士と言うのは、この世界の魔道士の階級のトップらしく世界に10人程しか居ないんだとか。
あと聖剣と言う、【聖(火・水・地・風・光・闇)魔法】スキルを持っている6人だけが使える、前世の世界にはなかった剣も使うらしい。
魔道士が剣を扱えるのかは全く分からないが。
おっと、余計なことを考えすぎた。
まだこの体にも完全に慣れているわけではないので慎重にするとしよう。
俺は取り込んだ魔力を操作して詠唱を始める。
「《火よ灯れ――【ファイア】》」
ポッと言う音を立てて真っ赤な1cm程の小さい炎とも呼べない火が俺の指先に灯る。
その火はゆらゆらと頼りなさそうに揺らいでいた。
うーん、まだ温度も低いし小さいな。
トラウマも相まって更に弱くなっているように見える。
まぁこの体では初めての魔法だからある程度は予想していたけど……これほど酷かったとは……。
もしかしたらこの体は前世の俺よりも才能がないかもしれない。
前世の全盛期では同じ魔法でも、真っ青な直径30cmほどの火球が出来るほどだったからな。
因みにこの魔法は初期中の初期で、平均的な物は、直径3cm程の黄色と赤の入り混じったような色の火だ。
それを考えると如何にこの体に才能がないかがよく分かる。
これなら無能と呼ばれるのも納得だ。
「だが、俺はその言葉が何よりも大嫌いだ。《火よ激しく灯れ――【ファイア】》」
俺は先程とは少し違う詠唱を唱えて、【ファイア】を発動させると、先程よりも黄色がかった赤い火が指先に灯る。
これは俺が前世の時に思いついた、詠唱を唱えないといけない初心者用の《詠唱改変》と言う物だ。
それによってより想像しやすくなり、現象をコントロール出来るようになる。
まぁ俺からすれば詠唱を唱えている時点でひよっこと公言している様なものなのだが。
しかしまだこの体では詠唱なしで発動させると威力どころかまともに魔法を発動できるかも怪しいので、当分はこの詠唱で戦うしかなくなるだろう。
そのために剣術もしておきたいのだが……
「まだこの体では剣は振り回せないだろうな……身体強化をすれば別だが」
私的に言えば身体強化はあまりオススメしない。
無理な強化は体を壊す。
特に俺のような貧弱な体だと尚更だ。
なので決闘は魔法のみで行く予定だ。
そのための秘策も考えてはいるので、取り敢えず魔法を早急に使えるようにならなければならない。
「すぅぅぅぅぅぅ……《火よ激しく灯れ――【ファイア】》《火よ激しく灯れ――【ファイア】》《火よ激しく灯れ――【ファイア】》《火よ激しく灯れ――【ファイア】》《火よ激しく灯れ――【ファイア】》《火よ激しく灯れ――【ファイア】》《火よ激しく灯れ――【ファイア】》《火よ激しく灯れ――【ファイア】》《火よ激しく灯れ――【ファイア】》」
ボボボボボボボッッ!!
俺は火を灯していなかった残りの指全てに【ファイヤ】を発動させる。
しかし9回言ったはずだが、7つしか成功しなかった。
「はぁ……要練習だな……」
俺は全ての火を消し、《吸魔》で魔力を補給してから再び発動させ始めた。
見ていたエマが開いた口が塞がらないと言った風になっていたのは言うまでもない。
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