第6話 大罪人は家族に会う

 それから15分ほどで、安定した火力の【ファイア】を発動させることが出来、その後は基本属性の水、地、風の初期魔法も同様に練習した。

 水は全ての指から放水。

 地は様々は種類の砂を一気に召喚。

 風は10回連続で風を起こす。

 

 どれも15分ほど練習しまくれば余裕で出来るようになった。

 それと同時にこの世界でも俺の世界の魔法法則が通じることが分かったのは嬉しい知らせだ。

 しかし同時発動ダブルキャストは出来なかった。


 まぁこれは詠唱をしている内は絶対に出来ないので諦めるとしよう。

 同時発動は想像力が一番重要で、詠唱なんてしていたら人間の口は1つしかないので物理的に不可能だ。

 まぁ熟練の魔道士にでもなれば、片方の詠唱で相手を騙して2つや3つの魔法を発動させることも出来るのだが、この体ではそうなるまでに10年は掛かりそうだな。


 兎に角魔法が今回の決闘では重要なため、ほぼ完璧に基礎が出来るようになるまで更に5時間程練習していると、


「レイン様、そろそろ夕食の時間です! 戻りましょう!」


 エマがそんな甘ったれたことを宣う。

 俺を心配してくれての事なのか、それともそれがこの家での決まりなのか分からないが、その言葉に俺は内心腹を立てる。


 そんな悠長にしている時間が俺にあるわけ無いだろうが。

 こちとら才能皆無だし1週間後にはこの体には大事な決闘があるんだぞ。

 

「戻らん。戻るならお前1人で戻れ。飯も後で適当に食うから放っておいてくれ」

「し、しかし……戻らないと主人様がお怒りになるし……」

「あ? 俺の父親が何故こんな出来損ないが居ないだけでキレるんだ?」


 もし俺が父親だったらまず出来損ないとか言わないが、今の状態なら居ないほうが嬉しいはずなんだがな。

 俺が行った所で空気が最悪になるとしか思えん。


「ですが……それがご命令ですので……」

「――チッ。なら俺が自ら言ってくる」


 魔法を消して吸魔も解除し、一時的に結界魔道具も解除する。

 そして水魔法で全身を水浸しにした後、風魔法で綺麗に乾かす。

 これで匂いでどうこう言われることはないだろう。


 俺はエマを連れて運動場を後にし、レインの家族がいるであろう食堂みたいな所へと歩を進める。

 道中相変わらず使用人たちに陰口とすら言えない侮蔑の言葉を投げ掛けられるが、俺は無視を決め込む。

 しかし俺が当主になったら俺とエマを悪く言っていた奴は男女年齢等しく全員クビにしてやるからな。


 俺は離れの建物に住んでいるため本館にはあまり立ち寄らない。

 記憶でも食事の時以外で来ている様子はないし。


 それとコイツの記憶に何故か食事が無いのはどういった事だろうか?

 夕食の時間だけはまるで寝ていたかの様に記憶がない。

 まぁそれも行ってみれば分かることか。


 俺はズンズンと早足で向かっていく。

 1分1秒が大事な時なのでこんな無駄なことには使いたくないのだ。


「エマ、家族がいるのは彼処か?」


 俺は廊下の突き当たりにある扉を指差す。

 そこだけ扉の大きさが他の所の1.5倍位ありそうだからそうかもと思ったまでだ。


「は、はい! あそこに皆様集まっております!」

「よし、なら突撃だ」

「―――へ?」


 俺はエマを抱きかかえてダッシュ。

 そのせいで廊下にドシンドシンと音が響き渡り、先程まで俺の陰口を言っていた使用人たちが慌てだす。

 多分ここは静かに歩けとか何とか言われているのだろうが、そんな事俺の知ったこっちゃない。

 まぁエマも顔を青ざめさせているが、これくらい我慢してもらおう。


 俺はエマを抱きかかえたまま扉を強めに足で蹴る――何てことはせずに普通にエマを降ろしてからそっと開ける。

 そこには1人の俺よりも小さい男の子と、40歳位の男女が座って仲良く食事をとっていた。

 多分あれが俺の家族だろう。

 その時少年が俺に気付くと加虐に顔を染めて言ってきた。


「ん? やっと来たかこの愚兄が!! 廊下をドシドシ走ってくるな! お前の体重で床に穴が空いたらどうするんだ!」

「そんなの知らん。そんな軟弱な屋敷を建てるやつが悪い」


 俺がまさか言い返すとは思っていなかったらしく、椅子に座って侮蔑の笑みを浮かべていた俺とは違ってスリムでイケメンな弟――アレスがポカンと口を大きく開けている。

 それは両親も同じ様で、父親はフォークに刺していた食べ物を皿に落とし、母親は目を見開いて固まっていた。


 ククッ……いいザマだ。

 俺は全く何とも思わないが、この体がコイツらに会ったときから怒りに震えていたので少し口答えしただけでこんな姿になるとは……どれだけレインを見下していたのかね?


 俺はこれ以上黙っていられては時間が勿体ないので話を進めることにした。


「お久しぶりですね、父上、母上。今日は1つ申し上げたいことがあって此方に来たのですが……皆さん話す気がなさそうなので帰ることにします」


 俺が踵を返してこの部屋から出ようとすると、母親が突然金切り声でキィキィ言い出した。


「な、何たる無礼な態度……!! それに私の息子に挨拶もしないなんて……お前何様ですの!?」

「確かに俺は義母上の子供ではないのですが、これでも次期当主なのでお前と言うのは少々不敬かと。それに私はアレスの兄なのに何故私が頭を下げないといけないのですか? それもあんな礼儀も知らない歳下の愚弟に」

「な、なっ――」


 又も言い返した俺に、今度こそ部屋がしんと静まり返った。

 さて、じゃあ俺の要件を言うとしますかね。


 俺はその空気の中口を開いた。



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