第7話 ドンドンドンドンドンドンドンドンドン
部屋に響き渡る、悪魔の呼び鈴。息を殺して、状況を確認する。
幻聴という線は一番最初に捨てた。それはただ現実から目を背けたいだけの言い訳の一つにしかならない。現実というのはつまり、この玄関の扉の奥に、ムラサメ(ヘルクイーン)がいるということだ。
「おーいぴょんきちー。なんで開けてくれないんだー」
聞こえてくるのは明らかに女性の声音。そもそもなぜ俺がぴょんきちだと分かったんだ。あのメッセージの内容からして、カフェを出たあたりから尾けてきたのは間違いない。
それによくアプリの中でしか関わりのない男の家まで来れるな。ある意味狂気に満ちている。
瀬那も近い匂いがするし、もしかして今どきの女子大生ってそんなものなのか……?
「このやろー! アタシを無視するとはいい度胸だな! もう怒ったぞ!」
居留守を使っているのはバレている。寝てたことにでもするか? それで諦めてくれたらいいんだけど……。
今日はこれからまだ大一番が控えているというのに、とんでもないタイミングでとんでもない輩に見つかってしまった。
ちゃんと鍵はかけている。お母さんに口酸っぱく言われていたおかげで、アームロックもした。
暗黒魔術か何だか知らないが何でも来い。隔てているのはたった一枚の扉だけど、ここに閉じこもっている間は一応大丈夫だ。最悪ベランダから飛び降りる。
これからの作戦でも練ろうか。
「——第二階梯暗黒魔術————」
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン
な…………何だこの音!?
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン
「まじかよあの野郎」
何が暗黒魔術だ。ただの物理攻撃じゃないか……!
それとも何だ。オークでも使役しているのか?
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン
——やばいやばいやばいやばい。
暗黒魔術より百倍やばいのがぶっぱなされてる。うちのドアは太鼓じゃないんだぞ!
このまま無視しておけばそのうち…………いや、最早常識が通用するような人でないのは火を見るより明らかだ。
一体どういう神経してるんだほんとに。もし俺がやべー奴だったらどうするつもりなんだ?
いっその事警察でも呼ぶか? それが最適解な気がしてきた。けどどう説明する?
最近のニュースでは出会い系のトラブルなんかもよく目にするし、そしたら親にもバレて……。
「うおぉぉぉぉぉぉぉおおおぁ!! 開けろコノヤローーーーーーーっ」
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン
「あぁもうっ!わかった開ける! 開けるから静かにしろ!」
根負け。俺の声が届いたのか、扉を叩く音は止んだ。でもここで無視し続けていたらまた始まるんだろうな……。
深いため息を吐きながら玄関へと引き返す。
ドアなんちゃらみたいな、名前は忘れたけど、ドアについていて外の様子を見れるコンタクトレンズみたいなあれに目をつけて覗いてみる。
……あれ、いない。
魚眼レンズみたいで見にくいのもあるけど、人っぽい影は見当たらない? 帰ったのか? そんなまさか。
とりあえずドアロックはそのままで、鍵を解除して今度は直接廊下を見れるようにする。数十センチの隙間から俺は顔を覗かせて——
…………いや、いないじゃん。
……もしかして最初から誰もいなかった?
本当に幻聴だったのか?
大丈夫か俺の耳と脳みそ。でも一応は結果オーライだ。ホッと一息ついて、ドアを引いて閉めようとしたその時だった。
——ズいっと、何者かの足が滑り込んできて、ドアを閉めるのを妨げる。
「——オイ! なんで閉めるんだ! ん……? なんだこれ。上のロックも解除しろー!」
やはり帰っていたわけでも、幻聴でもなかった。
俺は視線を下に向け、真っ白のスニーカーを凝視した。
…………小学生の足じゃね?
もしかしてさっき俺が外を確認した時、誰も視界に入ってこなかったのは……。
直感的にこれなら大丈夫だということで、ドアロックを解除してドアを全開にする。
「全くぴょんきちめ。いったいどれだけアタシを待たせれば気がすむのだ」
いや、小学生じゃね?
推定150センチメートル。そこには両手を腰に当てて頬を膨らませた幼女が立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます