第4話 SENA③

***


 店の中に入り、案内された座席に腰掛ける。



 カフェ『BLUE』

 その名前を表す特徴は、外観だけではなく店内にまで及んでいた。



さすがに壁全体が青一面というわけではないが、木を加工して作られたであろう丸いテーブルは青いペンキで塗られたようだった。



カウンター席に、対面式の座席、四人がけのテーブルと思っていたよりも中は広い。



俺とSENAさんは、お互いに向かい合う形でシックな椅子に腰かける。



「先に何か注文しましょうか」



「そうですね」



店員が水とおしぼりを持ってきたあと、SENAさんがテーブルの上にメニューを広げる。



コーヒーやジュースのドリンクの種類が豊富なのはもちろん、サンドウィッチやパスタも数が多い。と言っても時間帯的に微妙だし、何よりも緊張で固形物が全く喉に通りそうになかった。



俺はブレンドコーヒー、SENAさんはカフェモカを注文する。店員が去っていくと、ようやく俺とSENAさんの二人だけの時間が訪れた。



「何だか不思議な感じがしますね……ずっとメッセージのやり取りはしていたのに、実際は初対面なんですから」



「確かにそうですね……初めて会ったって気はあまりしないかもしれません」



俺はこの時になってようやくSENAさんの姿を真正面から瞳に映す。



最初に会った時にも思ったけど、本当にモデルなんじゃないかと思ってしまうほど背が高くてスラッとしている。



髪を染めたのか、アプリの写真とは違って少し茶色がかっているけど、背中まで伸びている長さはそのままだ。



俺とは違ってパッチリとした二重に、かなり薄めの化粧。きっとすっぴんでも綺麗に違いない。清楚系という俺の予想は当たっていたっぽい。



これでますますSENAさんが俺と会おうとしたのか分からなくなってきた。高校の同級生にも、このレベルの綺麗な人はそういなかった。



やっぱりどこかのタイミングで、どっきりのプラカードが出てくるのでは……それとも修哉の言う通り、本当に怪しい宗教に勧誘されたりして……。



自分でもひねくれた性格しているな、と思ってしまう。それぐらいまともに頭が働いていなかった。








***


私——荒川瀬那あらかわせなの目の前には今、運命の人が座っている。



あまり目を合わせてくれないけど、緊張しているのかな。



言われてみれば占い師の人って、みんな暗闇の空間でフードみたいなのを深く被って目元を隠しているから、こういう明るい場所には慣れていないのかもしれない。



アプリの写真とは少し印象が違って、同い年にしては少しあどけなさが残っているけどそれもそれで可愛い。真ん中でぴょこってなってるのは寝癖かな。



大人になったら運命の人と出会える——幼い頃にそうおばあちゃんに言われたことが、なぜかずっと頭に残っていた。



女子校育ちの私は男性と関わる機会がほとんどなく、あれよあれよという間に卒業を向かえてしまった。



機会がほとんどない——正しくは今までその機会を尽く失ってきた、と表現する方が正しいのかもしれない。



おばあちゃんは言っていた。



うちの家系は呪われていると。



その呪いは遺伝する。しかも、隔世で。



だからお母さんは大丈夫だという。



そもそも呪いってどんな呪い?



——口で言っても信じない。自分で体験すればわかる。



何度訊ねても、その答えしか返ってこない。分かっているのは、私に母方のおじいちゃんがいないということ。私が生まれるずっと前に、離婚したとしか聞かされていなかった。



——私が高校二年の時、初めてその呪いというものがどんなものなのか文字通り体験させられることになった。



私はそれをただの偶然だと片付けようとしたけれど、おばあちゃんはそうはいかなかった。



そしてその呪いを解くことができるのは、この世界でたった一人、私の運命の人だけだと。何度も繰り返し言い聞かされた。



——今、私の目の前で運命の人がコーヒーに口をつけている。



彼の名前はぴょんきち——本名、神田海斗と言うらしい。


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