出会いの日。赤く、流れて。第3話

 「えっじゃあ響がその子を助けてあげなかったら…。」


 僕は、休み時間に今朝起きた出来事を事細かに静香に話していた。


 「そうなんだ…でも、その子は助けてあげた後、笑ったんだよ。まるで、死のうとしていた事実が嘘みたいに…」


 「確かに不思議な子だね。でもこの学校の子なんでしょ?」


 そう。あの制服は僕達の通う高校の制服だった。今、目の前にいる静香が纏っている制服と全く同じ。白色のシャツに水色と黒色のチェック柄のスカートで腰には黒色のベルトを巻く。この辺では、珍しい制服だ。


「何年生なんだろう…。」

 僕がぽつりと呟くと、静香は目を丸くしてじっとみつめてくる。


「なんだよ。」

「もしかして響、その子のこと好きになってたりして」

「バ…カ。そんな訳ないだろ?今日会ったばかりなのに」


 僕が顔の前で何度も手を振っていると、両肩にずっしりとした重みがのしかかる。


「響が恋?誰だよ、教えろよ?」


 この耳に残るような低い声に、両肩をがっしりと掴んでくるのは振り返らなくても誰だか分かった。


 「だから恋なんかしてねぇよ。あと、前からその肩掴むのやめろって言ってるだろ?お前のでかい図体にのしかかられると痛いんだよ。」

 「あぁ、悪い悪い。で、誰なの?」


 静香の机に腰を下ろした後、白い歯をみせてにっと笑う一人の男子。白橋拓馬は僕がこの学校で心を許せる最後の一人だ。中学からの幼なじみで高一にして身長175cmもあり、肩幅も広い。少々短気な所があり喧嘩っ早い所もあるが、根は誰よりも優しくていい奴だということを僕は知ってる。


 静香と拓馬。この二人が居てくれるおかげで僕は学校に通うことが出来ていると言っても過言ではない。退屈な毎日が少しばかり色付いてみえるのは、この二人が僕と友達でいてくれるからだ。


「まじかよ?そんな映画みたいな話ってほんとに現実で起きるんだな。」


 中々話し始めない僕に変わって静香が代わりに事の経緯を拓馬に伝えてくれた。


 「その子の特徴を教えてくれよ。誰だか分かるかもしれない」と拓馬が言うと、私も聞きたいと静香が前のめりになって僕をみる。


 「特徴って言われても…」


 向けられた二人からの強い視線から逃れるように、天井をみる。そうしている内に頭の中で彼女の姿が浮かんだ。艶の入った綺麗な黒髪が風でなびいて、真っ白な肌が陽の光を弾いていた。すらりと伸びた長い手足に、目は大きく高い鼻梁が織りなす造形はどこか外国の血が入ったハーフの子にもみえた。


 言葉にするのは難しいが、美しいという言葉を体現したかのような子だった。思い返しているだけで少しずつ身体が熱くなり始める。


 「駄目だ。もうこいつは重症だ。完全に恋の病に侵されてる。」

 「ほんとそれ!」

 拓馬と静香が顔を見合わせて大きな声をあげて笑ってることに僕は少しばかりむかついた。馬鹿にされたかのような気分だ。


「その子は黒髪で、透き通るくらいの白い肌で…」 と、彼女の特徴を溜息を混じえながら言い始めた時、チャイムが鳴った。


「学校じゃまともに話しも出来ないな。放課後いつもの場所で詳しく聞かせろよ。それに響の性格上、学校では大っぴらに話したくないんじゃねぇの?」


 ワックスで持ち上げられた黒い短髪を掻きながら何気なく言い放つ拓馬に僕は感心する。さすが、幼なじみだ。僕のことがよく分かってる。


 「うん、拓馬の言う通りだよ。じゃあ放課後!」

 「だね!」


 数学の教師が入ってきたのは、静香が満面の笑みを溢した直後だった。

 

 

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