第40話 みんなを守りたいなら
白川家には、東三条家以上に複雑な事情がありそうだ。
「あくまで噂なんですけどね。でも、肌にあざのあとがあるところを見た人もいますし」
観月が口ごもりながら言う。
白川エミリアという少女の後ろ姿を見て、和樹は考える。
和樹はまともな父のもとで不自由なく育った。ただ、白川エミリアはそうではなく、私生児だから迫害されているらしい。
観月も生家では冷遇されいて、祝園寺の家に引き取られた。
「わたしには兄さんとお父さんがいたから救われましたけど……エミリアさんはずっと一人ぼっちなんですよね……」
観月にとってみれば、他人事ではないのかもしれない。同級生でもあり、かつての自分と似た境遇のエミリアに同情的なようだった。
和樹もエミリアを気の毒だと思うし、それにエミリアが白川家に良い感情を持っていないなら、エミリアは和樹たちの味方になる可能性がある。
和樹がそう言うと、桜子がふふっと笑う。
「なら白川家をぶっ潰して、エミリアさんを白川家の当主にするのはどう?」
「そ、そこまでのことはさすがに……」
「白川家は、透子お姉ちゃんたちをお金で買おうとしたような家だよ? それにエミリアさんをお兄ちゃんのハーレムに入れれば、白川家もお兄ちゃんのものになるし」
「俺はハーレムを作るつもりなんてないよ!?」
「もう作っているよね? 観月お姉ちゃんも透子お姉ちゃんも、もちろんわたしもお兄ちゃんのことが大好きだもの。一人増えたぐらいでなら、全然平気」
桜子がからかうように言う。桜子は完全に和樹に東三条家や白川家を乗っ取らせ、そしてハーレムを作らせるつもりのようだった。
たしかに、七華族のうち三家の力を手に入れれば、圧倒的に強い存在にはなれる。
「でも、白川家には長男もいるし、あとエミリアさんの異母姉もいるのよね。ほら、同じ学年に白川葵っているでしょ?」
透子に問われ、和樹は思い出した。たしかに、高等部一年に白川葵という女子生徒がいる。彼女も美少女ではあるが、わがままな性格で、しかも家の力をかさに着て尊大に振る舞っているから評判は良くない。
異母妹のエミリアにも冷たく当たっているらしい。
桜子がくすりと笑う。
「なら、白川家の男の人はみんな追放で、葵さんもお兄ちゃんのハーレムに入れるということで」
「桜子……あんたって、容赦ないわね」
透子も桜子の提案には、少し引いたようだった。けれど、桜子はいたって真面目な表情をしている。
「みんなを守りたいなら、お兄ちゃんも手段は選んでいられないよ」
そう。それはそのとおりだと和樹も思う。
霊力が覚醒しても、和樹は一人の少年にすぎない。
観月を、透子を、桜子たちを守るためには、もっと貪欲に力を手に入れないといけない。
「だから、次のお兄ちゃんの課題は、白川エミリアさんを味方にすることだね。つまり、エミリアさんに『祝園寺先輩、大好きです♪』って言わせないと」
「そんなことできるかなあ」
「お兄ちゃんならできるよ。きっとね」
桜子は自信たっぷりだった。
ともかく、エミリアを味方にしておいて損はない。
そして、その機会はその日の放課後に訪れた。
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