第39話 白川エミリア

 白川エミリアは、中等部の三年生。観月と同学年のはずだ。


「観月さ、白川エミリアさんとは話したことある?」


「ええと、何度かはあります。でもクラスは一緒になったことはないですね」


 和樹たちの通う星南学園中学校・高等学校は規模の大きい学校なので、中等部でも人学年には11クラスある。

 三年在籍してもクラスが被らなくてもおかしくはない。


 桜子が横から口をはさむ。


「観月お姉ちゃんたちは、星南学園五大美少女だもんね」


「なにそれ?」


 和樹が反射的に問い返すと、なぜか観月と透子が顔を赤くした。

 桜子がにやにやと笑う。


「星南学園の高等部、中等部で一番可愛い女の子の五人のこと。生徒たちのあいだで自然に決まったんだって。中等部ではけっこう有名だよ?」


「俺は初めて聞いたよ……」


「その五人のなかに、白川エミリアさんと、観月お姉ちゃん、透子お姉ちゃんが入っているの」


 身内の二人がまさかそんなふうに呼ばれているとは、和樹も予想もしなかった。

 どうりで、観月と透子が恥ずかしそうなわけだ。


「こ、こんな恥ずかしいあだ名いらないんですけどね」


「しかも、五人の順位まであって、観月が3位で、私が4位なの。気に入らないわ」


 透子はご立腹のようだった。透子は観月と親しいけれど、和樹をめぐるライバルでもあるし、対抗心を持っているようだった。


 剣呑な雰囲気になりそうなので、和樹は慌てて話題を変えることにした。

 ただ、話題の振り方に少し問題があった。


「白川エミリアさんは何位なの?」


「2位なの。観月お姉ちゃんも透子お姉ちゃんも負けちゃったね♪」


 桜子が可愛らしく、ふふっと笑う。

 煽られた観月はむうっと頬を膨らませる。


「金髪碧眼の美少女なんて、卑怯ですよ! 目立つに決まっています。顔のつくりで言えば、わたしの方が上のはず……!」


「実際、俺には観月の方が可愛く見えるよ」

 

 なにげなく和樹が言うと、観月は嬉しそうにふふっと笑った。


「ありがとうございます。わたしは兄さんの一番でいられれば、それで満足なんでした」


 和樹と観月は見つめ合い、互いの顔を赤くした。

 透子が咳払いする。


「五大美少女なんてどうでもいいけど、あの子は白川家の娘だから、私たちの敵ね」


「可能性としてはそうなるけどね」


「可愛い女の子だからって気を許さないでよね」


 透子にジト目で見られ、和樹は肩をすくめた。

 

「透子さんの言う通りですけど、ただ、一つ気になることがあるんです」


 観月の言葉に、和樹たちは振り向いた。


「何かあるの?」


「エミリアさんなんですけれど、愛人の娘ですから白川家で虐待されているらしいんですよね」


 観月は心配そうにエミリアを遠目に見つめていた。

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