第三章 白川家との戦い

第37話 桜子も協力してあげるのに♪

 その日は平日だったので、和樹は観月や透子、桜子と一緒に朝から学校へと行くことになった。

 

 敵の魔術師たちの残党や白川家による襲撃のリスクを考えると、外出することに不安もある。

 朱里と結子だけを屋敷に残しておくのも少し心配だ。


 それでも、和樹たちも普通の日常生活を送らないといけない。敵は壊滅したはずだし、残党もすぐには襲撃してこないだろう。


 白川家もさすがにしばらくは様子見するはずだし、いきなり襲撃して東三条の女達を略奪という強硬手段は取らないはずだ。


 そう思って、和樹たちは学校へと出かけたわけだ。京都市上京区にある歴史ある屋敷から、鴨川向こうの中高一貫へは歩いていける距離だった。


 登校中の和樹の隣に、透子と桜子の姉妹がぴったりとくっつく。


「えへへー、お兄ちゃんの隣♪」


「ちょ、ちょっと……桜子は離れなさいよ」


「どうして?」


「それは私が婚約者だから……」


 言いかけて、透子は口ごもってしまう。

 透子は観月が和樹の一番だと認め、「私は二番目の女の子でいいから、和樹の子どもを産ませて」と言ってしまった。


 桜子もそのことを知っているらしい。


「わたしたち東三条の女性は、みんな和樹お兄ちゃんのものだよ。透子お姉ちゃんが二番目なら、わたしは三番目の恋人でもいいの」


 そう言いながら、桜子は和樹の腕に自分の腕を絡ませる。まるで彼氏彼女のように。桜子も幼い印象ではあるけれど、とても可愛い子だ。そんな子に密着されると、和樹も平静ではいられない。


 透子が桜子に対抗するように、頬を膨らませながら和樹に腕を絡ませたから、なおさら和樹は冷静さを失った。


 そんななか、一人だけ観月は後ろを歩いている。

 桜子が振り返る。

 

「観月お姉ちゃんは何もしなくていいの?」


「少し考え事をしていまして。それに……兄さんの一番大事なものを初めてもらったのは、わたしですから」


 自信たっぷりに、観月はふふっと笑った。その答えに透子も桜子も「負けた……」という表情をした。


「考え事って何?」


 和樹は場の空気を変えるためにも尋ねてみる。観月は小首をかしげた。


「いえ……兄さんの霊力がますます強くなっている気がして」


「そうなの?」


 桜子は不思議そうに首を横に振る。もともと魔術の才能がない桜子には、判断できないらしい。

 ただ、透子はこくこくとうなずいた。


 実際、和樹も霊力の変化は感じていた。

 観月は少し顔を赤くする。


「その……男の魔術師の人のなかには、霊力のある女性とま、交わると霊力が増えることがあるみたいで……」


 観月がとても小さな声で言った。桜子が横から口をはさむ。 


「それって、つまり、和樹お兄ちゃんと観月お姉ちゃんがセックスしたからってこと?」


「せっ……さ、桜子! そんなはしたないこと言わないで!」


 透子が慌てた様子で言う。


「でも、事実だよね?」


 桜子に言われ、和樹も観月も顔を真っ赤にした。


「それはそうだけどさ、桜子……。こんなところで大っぴらに言わないでよ」


「あっ、ごめんなさい。でも、つまり、お兄ちゃんは霊力のある女の子とエッチするたびに、強くなるってことだよね?」


「いや、たしかにそうだけど、そんな目的で女性を傷つけるわけには……」


「でも、わたしも霊力があったら、お兄ちゃんに協力してあげるのに」


 桜子は幼いが端整な顔に、妖艶な微笑みを浮かべた。

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