第36話 透子は妊娠を待ち望む


 裸の観月に割って入られ、和樹はとっさに透子の身体を放す。透子は不満そうに一歩離れた。


 すらりとした観月の華奢な裸体を目の前にして、和樹はうろたえる。

 観月もかあっと顔を赤くした。


(あれが……俺のものになったのか)


 そう思うと、どきどきさせられる。透子も目の前にいるから背徳感が強い。

 観月はぶんぶんと首を横に振ると、少女にしては大きな胸が軽く揺れる。


「兄さんが透子さんに、こ、子どもを産ませるなんて、そんなハレンチなのはだめです!」


「自分も和樹と子作りしたくせに」


「に、兄さんはわたしだけのものなんです。


 透子はジト目で観月を見ていたが、急に表情を改めると、そっと観月の手を握った。

 観月はどきりとした様子で透子を見つめる。


「ど、どうしたんですか?」


「観月って本当に可愛いものね。和樹が心を奪われるのもわかる気がする」


「ほ、褒めても何も出ませんよ……?」


「ねえ、観月。私も観月の幼馴染で、仲の良い友達よね?」


「は、はい。透子さんは……わたしにも優しかったですから」


「なら、私を助けると思って、和樹を貸してくれない?」


「貸すだなんてそんな兄さんを物みたいに……」


「物だなんて思ってない。いいえ、私が物扱いされてもいいの。和樹が私を自分の物にするのを許してくれない?」


「ど、どういう意味ですか?」


「今は観月が和樹の一番でいい。だから、私に和樹の赤ちゃんを産ませてほしいの。そうしないと、私、白川家の嫡男やどこの誰とも知らない男にレイプされて妊娠しちゃうかもしれない」


 透子は必死な様子で観月に訴える。もともと透子は和樹のことが好きだが、透子が和樹のものとなるのは、そうしなければ彼女の霊力目当てに力尽くで犯されるかもしれないからだ。


「観月だって、初めては和樹がいいと思ったんでしょう? 私も同じなの」


「で、ですが……」


 観月がちらりと和樹を見る。観月からすれば、もちろん好きな相手……和樹が他の女の子を抱くなんて許せないだろう。


(観月が他の男に抱かれるなんて、俺も絶対に嫌だしな……)


 そのうえ、透子を抱くのなら、同じ理由で結子や桜子、朱里とも子作りが必要だ。彼女たちだって白川家に狙われる可能性はあるのだから。


 和樹が多数の女性と関係を持つなんて、観月が許すわけないだろう。


 とはいえ、透子や桜子は観月の友人でもある。特に、和樹へ婚約破棄を言い渡す前は、観月と透子の二人で休日に買い物に行くぐらい仲良しだった。


 観月は友人に迫る危機を救い、友人の願いを叶えたいとも思っているはずだ。


「少し……考えさせてください。兄さんとも相談します」


「ありがとう。もちろん、すぐにでなくてもいいけど、取り返しのつかないことになる前に結論を出してほしいの」


 取り返しのつかないこと、とは白川家が強引に透子の身柄を奪い、凌辱するような事態だろう。

 そして、それが起こる確率は決して低くない。もちろん、和樹たちも力を合わせて防ごうとは思うけれど、防ぎきれるかどうか。


 透子は媚びるように和樹を見つめる。


「和樹は私に興味ない?」


「きょ、興味って……」


「え、エッチな意味で……」


 真面目な透子がそんなことを言うと、和樹はうろたえてしまう。透子を妊娠させる、という話を思い出す。

 パジャマ姿の透子の下腹部をちらりと見てしまう。そのお腹が膨れていて、和樹の子を孕んでいるところを想像し、和樹は頬が熱くなった。


 透子も和樹の視線に気づいたらしい。透子は顔を赤くした。


「和樹のエッチ……私が妊娠しているのを想像した?」


「透子がそうさせたんだよ」


「そうね。すぐに現実のことになると思う」


 透子はふふっと笑い、そして、下腹部をさすった。

 和樹の子どもを妊娠するのを待ち望むかのように。

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