第35話 透子は既成事実がほしい
「と、透子さんが兄さんと子作りするなんて、絶対に駄目です!」
毛布にくるまった観月が慌てて言う。
透子はそんな観月を睨みつける。
「どうして? 私は和樹の婚約者よ」
「元婚約者でしょう? 兄さんの妻になるのは、わたしです!」
言ってから、観月は恥ずかしくなったのか、顔を赤くしてうつむく。一晩もっと恥ずかしいことをしたのに、結婚の話を出すのは照れてしまうらしい。
けれど、透子は動じなかった。
「なら、今は私は二番目の妻ということでもいいわ」
「に、二番目って……」
「桜子も言っていたでしょう? 東三条家は、祝園寺のものになったから、私たちは和樹の所有物なの。だから……和樹は私を好きにしていい」
透子は少し恥じらうように目を伏せる。
考えてみれば、和樹は裸のままで、薄い寝巻き姿の透子を抱きしめていた。
「私も初めては和樹がいい。ダメ?」
「で、でも俺には観月がいるから……」
「私は気にしないわ」
「透子。二番目でいいなんて、そんなこと言っちゃダメだよ。もっと自分を大事にしないと……」
それは和樹の本心だった。透子ほど美しく優秀な少女なら、相手はいくらでもいる。
和樹が透子を選べないのは心苦しいけれど、透子なら他にいくらでも良い相手がいるはずだ。
でも、透子は首を横に振った。
「私には和樹しかいないの。だって、ずっと婚約者だったし、和樹みたいな霊力を持った相手なんて他にいないし……それに、私は和樹のこと、大好きだし」
透子は和樹を上目遣いに見て、そんなことをささやく。
和樹が透子から手を放そうとすると、透子は必死な様子で和樹にしがみついた。
「ねえ、私を守って、和樹……。もしかしたら、私、白川家の男たちに犯されるかも」
「え?」
「たぶん白川家の当主や嫡男たちは、祝園寺が東三条の家を支配することに納得していない。東三条は自分たちのものだって主張してくるはず」
「そうなれば……全面戦争だ」
白川家は目的のためなら手段を選ばない悪名高い七華族だ。そして、彼らがもし東三条を手に入れようとするなら、手っ取り早いのは既成事実を作ること。
つまり、次期女当主の透子を手籠にして自分たちの女にする、ということだ。いや、透子だけじゃなく、前当主の結子や妹の桜子、親族の朱里たちにも手を出すかもしれない。
「白川家の男たちは、私に子どもを産ませようとするはず。次代の魔術師にするためにね」
「そんなこと、絶対にさせない!」
和樹は思わず大きな声を出す。透子もうなずく。
「わかってる。和樹が私たちを守ってくれるって信じてるから。でも、絶対大丈夫だとは限らないでしょう?」
「それは……」
「だから、私と……え、エッチなことをしてほしいの。白川家の男たちに汚される前に」
「そんなことできないよ」
「私のお願い、聞いてくれないの?」
「だけど……」
「私、生むなら和樹の子どもがいい。妊娠すれば、白川家の男たちが私を襲う危険も低くなるもの」
透子は和樹のことが好きでいてくれる。そして、卑劣な男たちに処女を奪われ、孕まされる前に、和樹に抱いてほしいという。
それはある意味では、合理的な話だった。こないだの襲撃でも、もし敗北すれば透子や結子たちも慰み者となっていた。
今度もまた、そういう危険が起きないとも限らない。
「……私を救って、和樹」
甘えるように、透子は言う。たしかに透子のためを思うなら、それもありうる選択肢なのかもしれない。もともと透子たちは東三条家の次代の魔術師となる子どもを産む必要もある。
和樹は口を開きかけ……。
「そんなのダメです、兄さん!」
悲鳴のような声を上げて、和樹と透子のあいだに割って入ったのは、一糸まとわぬ姿の観月だった。
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