第30話 保健体育で習ったんだよ、お兄ちゃん♪

「そ、そんなわけないと思うけど……」


 和樹が否定すると、桜子はにっこりと笑う。


「そんなことあるんだよ。実際、お兄ちゃんたちに守ってもらうことになるし……たとえば白川家みたいな家に助けを求めたら、わたしたちみんな身体を差し出さないといけなかったと思う。もちろん、わたしも」


 桜子がそんなふうに言う。たしかに、旧来の因習に囚われ、魔術を史上価値とする七華族ならやりかねない。白川家のような外道の七華族なら、透子たちを次代の魔術師を生む道具として扱うだろう。


 けれど、それと和樹が彼女たちをどう扱うかとはまた別問題だった。


 桜子はすっかりその気のようだけれど。もともと桜子は東三条家で冷遇されていたし、和樹が東三条家を乗っ取ることを提案したぐらいだ。


 積極的に他の女性も巻き込もうとしているのかもしれない。

 

「ね、お母さんも、和樹お兄ちゃんに従うんだものね」


「わ、私は……」


「お母さんはもう東三条家の当主じゃないよ。ただの下働きの女の人。そうでしょう?」


「ううっ……」


 結子は涙目でうめいていた。

 一方、桜子がいたずらっぽく瞳を輝かせる。テロリストに売られそうになった恨みもあるのか、結子をもはや母親とはあまり思っていないらしい。

 

 結子はすべての権力を失い、東三条家の家族の身分もなくなったという。自業自得といえばそうだが……。

 桜子が結子のバスタオルを奪ってしまう。


「きゃああっ」


 結子が少女のような悲鳴を上げて、うずくまって身体を隠した。和樹は美女の豊かな胸を見て、動揺する。なんだかんだで、結子はかなりの美人だった。

 そして、桜子がなにか結子の耳元にささやく。


 結子は恥ずかしそうに和樹を上目遣いに見て、そして、うずくまった状態から四つん這いになり、和樹の足元にひざまずく。

 その拍子に大きな胸が揺れて、ますます和樹を懊悩させる。


「か、和樹様……私を救ってくださりありがとうございました。こ、この卑しい雌奴隷にお慈悲をください」


「お、お慈悲ってなんですか……?」


「な、何でもご奉仕しますから、三人目の子供も産ませてください」


 結子は潤んだ瞳でそんなことを言う。冗談ではなさそうで、目つきは割りと本気のようだった。


 透子も朱里もぎょっとした様子だった。


「ちょ、ちょっと桜子、お母様に何言わせているの!?」


「お姉ちゃんだって、白川家に売られそうになったじゃない?」


「それはそうだけど、さすがにこれはお母様が可哀想よ……」


 憐れむように透子に見られ、結子はますます屈辱を感じたようだった。娘から同情の視線を送られたら、プライドが傷つくだろう。

 なぜか結子が興奮したように頬を赤く染めているのは気になるけれど。


 桜子は首をかしげていた。


「ひどいことだとは思わないけどな。だって、わたしも同じ気持ちだもの」


「え?」


「ね、和樹お兄ちゃん。卑しい雌奴隷のわたしにお慈悲をください。わたしもお母様やお姉ちゃんたちと一緒に、和樹お兄ちゃんの子供を生みたいの♪」


 桜子はその幼い胸をえへんと張る。小さな胸だけれど、バスタオルの上からその形がわかってしまう。

 和樹は慌てて目をそらした。


「あ、お兄ちゃん照れてる?」


「照れてない……」


「お兄ちゃんなら、いくらでも見てくれていいのに」


 そう言って桜子が和樹に近づこうとすると、今度は透子が桜子の首根っこをつかんだ。


「桜子……和樹をからかうのもいい加減にしなさい!」


「か、からかってなんかないもん!」


「それに、和樹と子作りするのは私だけの役目なんだから!」


 透子が言った直後に、和樹と透子の視線が合う。透子は恥ずかしくなったのか、顔を赤くしてぷいっと横を向いてしまった。


 その隙に今度は朱里が和樹に迫る。ロングヘアの清楚な美人女子大生は、とても上機嫌だった。

 朱里は和樹にしなだれかかり、バスタオルをはだけさせて、その胸を和樹の裸に密着させる。


「あんな変態母娘は放っておいて、美人のお姉さんのあたしにしたほうがいいんじゃない?」


「変態母娘言うな!」


 透子たちの声が浴室に響く。

 和樹はくらりとしてきた。桜子がくすっと笑う。


「お兄ちゃんは……ここにいる全員抱いてもいいんだよ?」


「い、意味わかっていってる?」


「保健体育で習ったもの。ばっちり」


 桜子がいたずらっぽく瞳を輝かせた。ませているなあ、と和樹は思ったけれど、今どきの中学一年生ならこんなものなのかもしれない。


 透子、桜子、朱里、そして結子の東三条一家が妊娠しているところを想像して、和樹は頭がくらくらしてきた。


 でも、和樹はどうするか決めていた。


「えーと、それでは家族水入らずでお風呂に入ってください。俺からは以上です」


 そう言うと、和樹は朱里から離れ、回れ右をして風呂場から逃げ出した。


「あっ、和樹……逃げちゃダメなんだからっ!」


 透子がそんなふうに声をかけるけれど、もちろんそのまま逃げ出す。

 このままだと、東三条家の女性たちを従えるどころか、手を出してその虜にされてしまうかもしれない。


 和樹はさっさと着替えて、自室に戻ることにした。

 そこで観月が待ち構えているとは知らずに。

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