第29話 わたしたち家族は、みんなお兄ちゃんの「女」なんだよ?


「お、俺が東三条家を乗っ取る?」


「そうだよ。別の言い方をすれば、お兄ちゃんがわたしたちを守るの」


「……そっか。こんな状態じゃ、今のまま東三条家を続けることはできないか」


 七華族の名門、東三条家が正体不明の男たちに襲撃され、ぼろぼろにされた。

 なんとか東三条の母娘は助かり、男たちの大半は倒したとはいえ、使用人や護衛、従属する魔術師たちは無事ではない。男は殺害され、女は拉致されて子どもを生む道具とされていいるだろう。


 当主の生死も不明だ。

 東三条家の権威は失墜した。他の七華族も、このままの東三条家を続けることはできないと判断するだろう。


「まずはお母さんは責任を取って、女主人の立場はクビだと思う。お父様も生きていたとしても、当主は続けられないよ」


「それは……」


「お父様は、べつにいいの」

 

 寂しそうに桜子は笑い、東三条家の当主が権力と金にまかせて、浮気や不倫を行い手当たり次第に愛人に子供を産ませ、家にほとんど帰ってこないことを教えてくれた。その愛人や娘たちもおそらく敵の魔術師たちに拉致されているだろう。


 だから、桜子や透子、それに結子も当主の生死はどちらでもよいらしい。当主がそんなふうだから、結子はおかしくなってしまったのかもしれない。


 そう思えば、結子には同情の余地があるし、父親の死もやむを得ない。


「そうしたら、透子お姉ちゃんが東三条家の当主になるけど……未成年だし、女の子だし……他の七華族が認めてくれないかもだし、また危険な連中に襲われるかもしれないから、他の七華族の援助が必要。でも……」


 他の七華族もあまり信用できない。


「白川家は……ダメか」


「うん。だって、白川家の人たちは透子お姉ちゃんを道具だとしか思っていないもの。頼ったら、きっとわたしやお母様、朱里さんだって、ひどい目に合わせようとするに決まってる」


 有力な七華族の白川家は、手段を選ばない。透子を婚約者に望んだのも身体目的だ。

 没落した東三条家を手に入れれば、東三条の女性たちを慰み者とするに違いない。

 他の家もあまり事情は変わらない。


 だとすれば、祝園寺家が東三条家の後見人になればよい、ということになる。


「祝園寺のおじさまは信用できるし、それにお兄ちゃんのおかげでわたしたちは助かったんだもの。問題ないよね?」


「で、でも……」


「お兄ちゃんは、わたしたちを助けてくれない?」


 桜子に上目遣いに見られて、和樹は降参した。

 結局、和樹と観月が東三条家の屋敷に住み、透子たちと東三条家の立て直しにあたることになったのだ。





 その日の夜。

 東三条家の大浴場は無事で、その豪華な大理石でできた湯船はとても広々としていた。


 もし一人だったら、とてもくつろげただろう。

 だが、そこにいたのは和樹一人ではなかった。


「な、なんで透子たちがいるの?」


「き、決まっているでしょう? それは私が和樹の婚約者だから……」


「でもあとの三人は?」


 白いバスタオル一枚を羽織った姿の女性が四人、目の前にいた。

 左から透子、桜子、朱里、そして、結子と並んでいる。


 透子は頬を膨らませて、桜子はあどけない笑みを浮かべて、朱里は目を輝かせ、結子は頬を赤くしていた。


 みんな美少女・美女ばかりだ。スタイル抜群の結子や朱里も、少女らしい体つきの透子や桜子も、みんな丈の短いバスタオルで胸元や太もももあらわな大胆な格好だ。


 桜子がふふっと笑う。


「東三条家は祝園寺の家の管理下に置かれるんだもの。だから、東三条の女性はみんな和樹お兄ちゃんのものってこと。だからこれからはみんなでお兄ちゃんに奉仕するの」


 桜子はそう言うと、その小さな手を和樹の胸板に置き、幸せそうに微笑んだ。

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