第28話 桜子の東三条家乗っ取り計画

 裸の結子と朱里は弱りきった様子で、部屋に入るなり、倒れ伏す。

 別室から逃げ出してきたのだろう。軽い拷問を受けただけのようだが、それでも弱っていることに違いはない。


 朱里が和樹の足元にすがりつき、見上げる。その美しく長い髪が揺れ、その瞳には涙が光っていた。


「お願い……和樹くん……助けて」


 懇願する朱里を、もちろん和樹は助けるつもりだった。もちろん結子も、だ。二人はもともと和樹を見下していたけれど、そんなのは些細なことだった。


 透子たちの家族や親族である女性を、卑劣な男たちにさらわせるつもりはない。

 下卑た顔の男たちが部屋に乱入してくる。結子たちを追いかけてきたのだろう。


「諦めて俺たちの子供を産めよ……。あれ、まさか……全滅……? ぎゃああっ」


 室内の状況を見て、顔色を変えた彼らを、和樹は霊力で一瞬で葬り去った。

 部屋に残った男たちより格下だったからか、瞬殺だった。


 それでも、優秀な魔術師の結子や朱里が歯が立たないほどの強さではあったのだけれど。

 結子が恐る恐る顔をあげる。その顔は涙で濡れていた。


「勝ったの……?」


「はい」


「……和樹くんのおかげね」


 そう言いながら、結子は顔を赤らめると、手でその美しい身体を隠した。

 和樹は裸の結子を見て、どきりとする。娘二人を売ろうとするような人ではあるけれど、容姿だけは本当に若くて綺麗で……そして、10代の娘よりはるかにスタイルもいい。


 見た目だけなら、透子たちの姉といっても通るだろう。

 結子は恥ずかしそうに和樹を上目遣いに見る。


「な、何、見ているの……?」


 和樹は慌てて上着を結子は被せる。結子は小声で「ありがとう」とつぶやいた。

 振り返ると、透子がジト目で見ている。


「和樹のエッチ……お母様にまで手を出すつもりなの?」


「ち、違うよ……」


 透子がそっと和樹に近づき耳元に口を近づける。


「お母様の裸でエッチなことを考えなくても……私がいくらでも相手にしてあげるのに」


「そ、それって……」


「言葉通りの意味。私は和樹の婚約者なんだもの。子供だって生んであげる」


 透子はいたずらっぽく言ったが、その顔は真っ赤だった。


「き、気が早いよ……」


「早くなんてない。和樹がいなかったら、私、あの男たちに妊娠させられていたもの。助かったのは、全部、和樹のおかげ。だから、和樹の子供が、わたしはほしいの」


 そう言うと、透子はそっと和樹に身を寄せて、そして唇を近づける。

 キスしようとしていることは、和樹にもわかった。和樹は思考が停止してしまい、固まった。

 敵は迷わず倒せるようになったけれど、透子たちのことをどうすればいいのか、それは全然わからなかった。


 そのままだったら、和樹はキスされていただろう。ところが、そうはならなかった。


「わたしの兄さんを奪うなんて、許せませんから!」


 観月が割り込んで、和樹と透子を無理に引き離した。

 

「いいところだったのに!」


「抜け駆け禁止です!」


 観月と透子がバチバチと火花を散らしはじめる。その隙に今度は、朱里と桜子が和樹の両隣に現れた。

 朱里は裸のままだったけれど、気にしていない様子で、和樹にぴったりとくっつく。そして、目をきらきらと輝かせていた。


「やっぱり和樹くんはすごい……! ね、あたしの夫になってくれない?」


「え? こないだは結婚はしないけど子供をくれなんて言っていたじゃないですか!?」


「もちろん子供はほしいけど、和樹くんがいれば時枝家はもっと安泰。その……今更かもしれないけど、今まで失礼な態度をとってきたのは本当にごめんなさい」


「まあ、俺は今まで霊力がなかったんだから、それは仕方がないと思いますけど……」


「和樹くんがすごいなって思ったのは、霊力だけじゃないの。観月たちを命がけで守って、あたしたちまで身を張って助けようとしてくれた。あたしだったら……できなかったと思うから」


 朱里は顔を赤くして、言うと、「ね、どう? 結婚しない?」なんて言う。

 そんなことを言われても、和樹は困ってしまう。もちろんイエスなんて言えるわけない。和樹には観月と透子がいるんだから。


 けれど、朱里は微笑んだ。


「今すぐ答えはいらないの。でも、いつかはあたしに振り向かせてみせるんだから」


 それから、朱里は裸であることをおもだしたのか、慌てた様子で服を探し始めた。

 くっついたままの桜子がくすっと笑う。


「和樹お兄ちゃん、モテモテだね」


「そ、そんなことは……」


「そんなことあるでしょう? それに、わたしも和樹お兄ちゃんのこと、大好きだもの。ね、提案があるの」


「て、提案……?」


「うん。お兄ちゃんが……東三条家を乗っ取ってみる気はない?」


 桜子は幼い顔に、不思議な笑みを浮かべた。

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