第25話 結子の屈辱

 昨日、和樹たちの家を襲った魔術師の男。その正体不明の男が、仲間を引き連れて東三条邸を襲撃したようだった。


 黒服の男たちがにやにやと笑っている。


 爆風が収まった後、応接間は悲惨な状況になっていた。シャンデリアが落ち、窓ガラスが粉々になっている。


 和樹はなんとか観月を抱きしめて、守ることができた。和樹の霊力が、障壁となって怪我を負わずに済んでいる。

 観月はどきどきした表情で、和樹を上目遣いに見つめていた。


「和樹兄さん……」


「大丈夫。俺が観月を守るから」


「は、はい……」


 観月が「に、兄さんがかっこいい……」とつぶやきながら、ぎゅっと和樹の体にますます密着した。


 ちらりと後ろを振り向くと透子と桜子の姉妹も、無事のようだった、怯えながら、互いの身体を抱いて震えている。


 問題は、部屋の爆破された側にいた二人だ。そちらには朱里と結子がいた。透子の従姉の朱里は、血を流してその場に倒れている。出血量は多くないし命に別状はなさそうだが、気を失っているようだった。


 そして、透子の母の結子は、その美しい身体を男の一人に拘束されていた。

 羽交い締めにされた結子が、きっと男たちを睨む。


「放しなさいっ。私は西桜木家の娘で、東三条家の女主人ですよ! あなたたちのような下賤な男に触れられるなど……きゃあっ!」


 結子が少女のような甲高い悲鳴を上げる。

 男の一人が赤い和服を正面からびりびりと破ったのだ。


 結子の白い肌が露わになり、その豊かな胸がこぼれ出る。

 結子はまだ30代なかばで、外見だけなら20代前半ぐらいにしか見えない美貌の女性だ。


 そんな結子のあられもない姿に和樹はうろたえる。

 

 リーダー格と思しき昨日の男が、にやりと笑う。


「優秀な魔術師の母体が五人もいるとはね。しかも、みんな美女や美少女揃い。僕らの性奴隷にして、子供を産ませてあげましょう」


 和樹は頭に血が上るのを感じた。五人とは、観月、透子、桜子、結子、朱里のことだと思う。

 彼らはその全員をさらい、凌辱するつもりなのだ。


 男は続ける。


「それにしても、東三条家がこれほど弱体化しているとは。あっさり屋敷を制圧できましたよ。まあ、娘を白川家に売らないといけないほど没落しているのですから、当然といえば当然ですが」


 東三条家が没落しているというのは初めて聞いた。けれど、言われてみれば、過去の勢いはないかもしれないし、現に屋敷は男たちの手に落ちた。内実はかなり弱っていたのかもしれない。


 結子が娘の透子を強引に白川家の婚約者としたのも、そういう事情があればうなずける。


 結子は男たちにすっかり衣服を奪われていた。このままだと、陵辱されることになるだろう。


「やめなさいっ! 夫以外の子供なんて生みたくないっ! あっ、やめてえええっ」


 結子の懇願に男たちは誰も耳を貸さなかった。助けたいところだけれど、うかつな動きはできない。


「お母様っ!」


 透子が悲痛な声を上げた。


 結子が恥辱に顔を赤くしながら、男たちを媚びるように見つめる。


「わ、私にはまだやるべきことがあります……。取引しましょう。む、娘の桜子なら好きにしていいから、私は解放してくれませんか?」


 結子はとんでもないことを言い出した。桜子をちらりと見ると、桜子が大きな目を見開き、悲しそうな顔をしている。


 霊力の低い桜子は、七華族の魔術師としてはたしかに適性がない。それでも、自分が助かるために、娘を差し出そうとするなんて、結子の発想が、和樹には信じられなかった。


 もう一人の娘の透子は利用価値があるから、白川家という他の魔術師に差し出すわけで、家の苦境で追い詰められたせいか、結子は自分のことしか考えていないらしい。


「それで足りないなら……祝園寺の娘も好きにしていいですから」


 結子が男たちに抵抗しようとしながら、そんなことを口走る。自分の家の人間ではない観月さえも差し出すつもりらしい。

 和樹は衝撃と、結子に対する深い失望を感じた。かつては結子は、婚約者の透子の美人の母親で、憧れですらあった。幼い和樹や観月にも優しくしてくれた。


 けれど、今の結子は東三条家と自分が助かるために、惨めな姿をさらしていた。


 だが、男たちは結子の提案に従うわけもなかった。男たちはこの場の全員の女性を自分たちのものにできると確信しているだろうからだ。


「今頃あなたの夫も我々の手の者に殺されているはずだ。諦めて僕らの子供を生みなさい」


 そう言われて、結子はその端整な顔を絶望に歪めた。裸の結子の胸を男たちが背後から無遠慮にまさぐる。だが、もはや結子は抵抗する気力もないのか、男たちにされるがままになっていた。

 男は愉快そうに笑う。


「東三条透子さん、東三条桜子さん、喜びなさい。あなたたちに弟か妹ができますよ」


「……っ!」


 透子と桜子の姉妹は互いを抱きしめあったまま、びくりと震えていた。男はその反応に満足そうに微笑む。


「もっとも、透子さんも桜子さんも自分が母親になるわけですけれども。母娘三人そろって、次代の魔術師たる子供を産む犠牲になってもらいましょう」


 男は欲望むき出しにそんなことを言う。

 男たちは魔術の力で日本を支配すると、昨日は言っていた。


 けれど、そんなことを許すわけにはいかない。

 和樹は観月の肩をぽんぽんと叩く。観月は不安そうに和樹を見上げた。


「わたし……あんな奴らにひどいこと、されたくないです」


「ああ。観月は……透子も桜子も、もちろん結子さんも俺が守るさ」


 以前の和樹だったら、そんなことは言えなかった。

 でも、今は違う。今の和樹には力がある。

 

 観月がうなずき、微笑んだ。


「そうですよね。絶対に兄さんがわたしのことを守ってくれるって信じています」


 そう。必ず観月、透子、桜子を守り、男たちを撃退してみせる。

 和樹はそう心に誓い、戦いの態勢に入った。







<あとがき>

和樹の活躍……!


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