第二章 東三条家の妹と母も妊娠候補?

第19話 後継者を産ませてくれない?

「ようこそ、我が家へ」


 東三条家の門をくぐり応接間に案内されると、透子が上機嫌に出迎えてくれた。

 和樹と観月は顔を見合わせる。


 昨日の事件の後、和樹たちは魔術師の男のことを報告しに、東三条家を訪れていた。


 幸い、今日は休日だ。

 透子は和樹の婚約者だったし、何度もこの屋敷は訪れたことがある。さすが名門の東三条家というべきか、応接間はとても豪華だ。


 高級そうな机に、座り心地のよい長椅子。そしてシャンデリアがある。


 ただ、観月はものすごく警戒していた。透子が強引な形で和樹に婚約者を続けさせようとしているのではないか、と疑っているらしい。


 実際、霊力の問題がなくなった今、和樹と透子の婚約を解消する理由はなくなった。むしろ高い霊力を持つ和樹と、透子を東三条家は結婚させたがるだろう。次代の後継者を産ませるために。


 そのうえ、透子も和樹に好意を持ってくれているようでもある。


「兄さんは渡しませんからね」


 威嚇するように、観月が言う。そんな観月に透子は余裕の笑みを浮かべていた。


「和樹は私の婚約者だもの」


「兄さんはわたしのものです」


 本題に入る前から喧嘩になりそうだったので、和樹は慌てた。

 そんなとき、一人の女性が応接間に入ってきた。


「あら、祝園寺の出来損ないじゃない」


 冷たく言う背の高い女性は、時枝朱里あかり。透子の従姉だ。

 この街の国立大学に通う大学一回生で、すらりとした美人でもある。知的でクールな雰囲だ。ただ、スタイルはかなり良くて、大きな胸に、長く伸ばした髪がかかっている。

 さっぱりした青いワンピース姿で、ちらりと見える白い脚がまぶしい。


「ご無沙汰しています、朱里さん」

 

 和樹が頭を下げると、朱里は嫌そうな顔をした。

 朱里は東三条家の分家の生まれで、東三条家の屋敷に住んでいた。魔術師でもあり、そしてそのことに誇りを持っている。


 昔から、霊力のない和樹のことを見下していた。透子との婚約に反対した一人でもあると思う。

 

 和樹自身は気にならなかったが、観月も透子も朱里の態度にむっとしていた。


「和樹の霊力は覚醒したんです、朱里姉さん」


「まさか……」


 透子の言葉に、朱里ははっとした様子になる。

 今の和樹は霊力が満ちていて、透子も最初から和樹を無能と決めつけていなければ、そのことに気づけるはずだった。


「ど、どういうこと……!? あたしや透子や観月さんより、和樹君のほうがずっと霊力が多いじゃない!」

 

 和樹は昨日の出来事をあらかた説明した。

 朱里は驚いていたが、納得したようだった。


「珍しいことだけど、歴史上ありえないことじゃないわね……。それより、和樹君、お願いがあるの」


 朱里は急に媚びるように、和樹を上目遣いに見た。

 お願い、とはなんだろう……?


「そ、その……」


 朱里は顔を赤らめて、口ごもった。

 そして、和樹の耳元でささやく。


「時枝家に、才能ある魔術師の後継者がほしいの」


「え?」


「あたしに協力してくれない?」


「ど、どういうことですか?」


「い、言わせる気? あ、あたしに子供を産ませてほしいの……」


 朱里はそう言って、真っ赤な顔でうつむいた。

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