第16話 ファーストキスは義妹のもの
透子にキスをされるなんて、和樹は思いもしなかった。
でも、透子のキスは情熱的で和樹を放そうとしない。
やがてキスを終えると、透子は真っ赤な顔で和樹を睨んだ。
「ふぁ、ファーストキスだったんだからね!」
「そ、そうなの?」
「ずっと和樹と婚約者だったんだもの。他の男とキスしたりするわけない」
そう言われればそれもそうなのかもしれない。もしそんなことをすれば、浮気、ということになってしまう。
それに、透子は――。
「貴方のこと好きだったんだもの」
透子は和樹の耳元でささやいた。
恥ずかしくなって、和樹は自分の頬が熱くなるのを感じた。
「そ、それなら、どうしてそう言ってくれなかったのさ?」
「その言葉、そっくりそのまま貴方に返してあげる。これまで何もしてこなかったのは和樹もでしょ?」
「それはそうだけど……」
透子との関係を先に進めようとは和樹はしなかった。そうする勇気がなかったからだ。
透子もそれを望んでいないと思っていた。
だけど、違ったらしい。
「私たちは幼馴染で、家の決めた婚約者で……その関係を変えようだなんて、言い出せなかった。だって、怖かったもの。和樹から言い出してくれるんじゃないかって、私のことを好きだって言ってくれるんじゃないかって期待してた」
「ごめん……」
「謝らないでよ。私がほしいのはもっと別の言葉」
そう言って、透子は少し甘えるように、和樹を上目遣いに見た。
透子が望んでいることは和樹も理解している。
婚約者に戻って、東三条家の人間を一緒に説得して、そして、自分を好きだと言ってほしい。透子は、和樹がそう言うことを望んでいる。
それは魅力的な選択肢でもあった。透子は和樹のことを好きで……婚約者でいてほしいと望んでいる。透子にとって、和樹は特別な存在なのだ。
ここで透子の望み通りに、うなずけば元通りなのかもしれない。
でも、和樹の背後には、和樹とキスをした妹がいた。
振り返ると、観月は立ち上がり、手で胸を隠しながら顔を赤らめていた。
隠しても、その豊かな胸の膨らみはわかってしまう。
「に、兄さんのエッチ。透子さんとキスするなんて……」
「そ、それは……」
「それに、わたしのことも、あまりエッチな目で見つめないでください」
「あっ! ご、ごめん……」
「い、いえ、やっぱりもっと見ていただいてもいいんですよ! 透子さんの目の前ですから、少し恥ずかしいですけど……兄さんがそうしたいなら、触ってくれたっていいですし……」
観月は恥ずかしそうにしながらも、微笑んだ。その目は和樹と……後ろの透子に向けられていた。
もちろん、和樹は観月の身体を触ったりするわけない。観月もそれをわかっているのか、胸から手を放す。
白い胸が和樹の目の前にそのままさらされる。桜色の小さな突起も……。
和樹がフリーズしていると、観月はえいっと和樹に抱きついた。ぎゅっと観月の胸が押し当てられる。
「兄さん……今、わたしの胸を見てましたよね?」
「観月が見せたんだよね?」
「そうですけど。でも、兄さんの目がエッチでした」
「それは……ごめん。そのとおりだ」
「認めるんですね? 兄さんの変態。だから、兄さんに胸を見られないようにしてあげているんです」
たしかに正面から観月と密着すれば、和樹は観月の胸を見られるわけがない。より問題のある状態になっているけれど。
透子がいなかったら、和樹が観月に何もしないでいられたか、自信は持てなかった。
観月がふふっと小悪魔的に笑い、「兄さんがわたしで恥ずかしがってる……嬉しい」とつぶやく。
「でも、わたしも兄さんのことを言えないですけど」
「え?」
「わたしも兄さんのこと、エッチな目で見ていますから」
観月は和樹を上目遣いで見て、甘い声で言った。
反射的に和樹は観月の背中に手を回し、その身体を抱き寄せてしまう。
「に、兄さん……!?」
「あ、ご、ごめん。つい……」
「べつにいいです。兄さんになら何をされても……きゃっ」
和樹が観月のお尻を軽く撫でると、観月は小さく「ひゃうっ」と喘ぎ声を上げた。
「兄さん……ダメっ! そんな……あっ」
そのとき、理性の崩壊しかかかった和樹と観月のあいだに割って入ったのは、透子だった。
透子は頬を膨らませ、二人を睨みつける。
「観月! 色仕掛けってわけ? そんなの絶対にダメなんだから!」
「いきなり兄さんにキスした人に言われたくありません」
「観月だってキスしたんでしょう!?」
「そうです。兄さんのファーストキスはわたしがもらったんです」
二人の美少女が言い争う姿に和樹ははらはらして、そして、しだいに頭が冷静になっていく。透子はセーラー服で、観月はほとんど裸で、そしてここは風呂場だった。
どう考えても普通の状況じゃない。
「と、とりあえず、風呂からはいったん出ようか……」
観月と透子は顔を見合わせる。そして、冷静になって恥ずかしくなったのか顔を赤くして、こくりとうなずいた。
妖しげな空気が場を包んだのは、そのときだった。
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