第14話 観月の大胆戦術

 キスされた、ということを和樹の脳が理解するまでに少し時間がかかった。

 観月の口づけで、和樹の唇は塞がれている。その甘い感触に和樹はどきりとさせられる。


 下着姿の観月が風呂場で裸の和樹にキスをしているという異常な状況だ。

 しかも、扉の後ろには透子がいて、婚約者に戻ってくれないかと問いかけている。


「和樹……答えてくれないの?」


 透子が寂しそうに言う。しかし、観月にキスされているから答えるに答えられない。

 そして、観月は和樹をぎゅっと抱きしめて放そうとしなかった。


 観月は、和樹が透子に返事をするのを強引に止めようとしたのだろう。おそらく和樹が透子の願いを受け入れてしまうと思ったからだ。

 それでキスをした。

 

 でも、結果として義妹とキスしたことは変わらない。


 透子が「和樹……」と切なそうに名前を呼ぶ。拒絶されたと思ったのかもしれない。

 和樹はもうどうすればよいかわからなくなった。


 観月の甘い口づけは続いたままだった。和樹の口を封じようと、観月は舌を絡めさえしていた。


「ちゅぷっ……んんっ」

 

 観月が少し苦しげに、けれど甘くあえぐ。小さな声だけれど、透子に聞こえないか気になる。


 それより問題なのは、和樹も、きっと観月もファーストキスなのに、こんな大胆なキスまでしてしまったことだ。


 まるで透子の存在を忘れさせようとするように、観月は情熱的にキスしていた。


 けれど、この不自然な均衡は長くは続かなかった。


 和樹が観月から離れようと一歩後ろに下がろうとすると、観月は和樹を放さないでいようと前のめりになった。

 その拍子に観月が体勢を崩してしまう。


 観月が小さく「きゃあっ」と悲鳴を上げ、後ろに倒れ込む。


(しまった……)


 透子が息を飲む声が聞こえる。


「観月もそこにいるの? なんで!?」


「そ、それは……」


 尻もちをついた観月は、和樹を見上げた。

 そして、ささやく。


「兄さん、ごめんなさい。でも……もうわたし、自分の気持ちを隠したり、透子さんに遠慮したりしないって決めたんです」


「そ、それって……」


「わたしが兄さんの一番の女の子になりたいんです。そのためなら、どんなことでもしてみせます。兄さんが望むなら、どんなことをされてもいいんです」


 そして、覚悟を決めたように観月はそっと純白のブラジャーに手をかけて、外してしまった。

 観月の白い胸がさらされて、和樹は慌てて目をそらした。


 ほぼ同時に透子が浴室の扉を勢いよく開けた。

 つまり、透子の目には、こう見えたはずだ。


 裸の和樹が立っていて、上半身裸の観月がその前に押し倒されている、と。

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