第6話
人気の無い校舎裏。そこの地面の一部がパコッ、っと蓋が開くかのように円形に浮かび上がる。しばし浮いたその隙間から外の様子を確認するように浮遊しづけた後、蓋が横に置かれて姿を現した穴から人が二人這い出てくる。
「いつの間にこんなものを……」
後から出てきた羊が呆れるように言うが、狼はどこか自慢げで、
「学校への秘密の抜け穴なんて3つは用意してあるぜ。まぁ本来は侵入用ではなく脱出用に作ったんだけどな」
「何から脱出するつもりだ、君は」
「補講とか補習とか説教とか」
「こんな秘密の通路作るくらいなら赤点取らない程度の勉強をした方が早いと思うんだけど……」
「うるせーな。今こうして役に立ってんだから文句言うんじゃねー」
「むぅ……」
そう言われてしまうと羊も文句が言えなくなる。役に立つケースも大分レアケースだと思うのだが、こうして役に立たれてしまった以上、確かに文句も言えまい。塀を超えてくる、というところまでは警戒していたとしても、地下からやってくるなど向こうも想定していないのだろう。人の気配がこの辺りにはない。
スススーっと、校舎への入り口まで近づくと狼の足が止まる。羊も合わせて足を止める。どうやら流石に校舎内は巡回の女子が居るらしい。それも結構な数が廊下をあっちに行ったりこっちに行ったりしている。校舎に気付かれずに入るだけでも難易度が高そうだな、と羊は思っていたのだが、狼はタイミングを計るように自身の腕時計に目をやると、
「いいか。後20秒したら行くぞ。俺に付いてこい」
「ん?」
「さっきから見てたらアイツら規則的にしか動かないんだわ。だからタイミングさえ合わせれば……、って言ってるうちに行くぞ」
「うぉっ、ちょいっ」
行くぞ、と言われたから反射的に言うことを聞いて付いてきた羊だが確かに。廊下、階段と誰にも気付かれることなく通過できた。見張り全員の視界から外れた瞬間を突いたらしい。
「すげ」
「規則的に動く見張りなんて何も怖くねーや。不規則に動く酔っ払いの見張りの方がよっぽどこえー。マジで次どう動くか全然読めねーからな。最悪急に吐いて人集めるし」
「どこでそんな経験値積んだんだ、っていうのは聞かないでおこう。怖いから」
「そりゃ英断だ」
世の中、知らない方がいいことなどいくらでもあるのである。少なくとも今ここに至っては役に立っているのだから、狼のどこで得たか分からない経験値には感謝しておこう。
誰にも気付かれずに屋上に行く、そんなことできるのかと、内心羊は疑っていたのだが(最悪、ダッシュで屋上まで追い付かれずに走り抜けることも想定していた)、狼のおかげでするすると最上階までは気付かれることなく移動したのだが、
「っと、流石にあそこには見張りが居るか」
屋上へと繋がる唯一のドア。そこには門兵のように箒を携えた女子が一人立っている。ドアの前に張り付くように立たれていては流石に気付かれないのは無理だろう。
「ちょっと待ってろ」
と、羊は思っていたのだが、狼には何か策があるらしい。5円玉の穴に紐を通すと、階段の窓から顔を出し、握った紐をブンブン回して上へと投げる。紐に付けられた5円玉は見事に上の階の窓、門兵の立っているすぐ横の窓へとぶつかる。
「っ!?」
音に驚いて門兵が窓の方を向いた瞬間、狼は階段の手すりを掴んで上へとショートカットすると、門兵の背後に音も無く近付き、首筋をチョップ。ガクッ、と崩れ落ちる門兵を支えると同時、門兵の指と階段の手すりを支えている棒とを紐で素早く拘束する。
「ミッションコンプリート」
「忍者か君は……」
若干引きながら羊も近付いていく。手際の良さを褒めるべきか、良すぎる手際を訝しむべきか。判断が難しいところである。
「何変な顔してんだよ?」
「失礼な。一生懸命考えている顔だ」
「そうかい。ならせいぜいそのいい頭でいっぱい考えてくれ」
狼は屋上へと続くドアを見て言う。
「こっからが一番の正念場だからな」
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