第2話

「なーにが短く済ませるだこの大ウソつきめっ!」

「まーさか夜になるとはなー」

 日が傾いている放課後から話し始めた、というのを差し引いても、日はとっくに沈み、星と月が登ってきている。『短く』とは一体、という話だ。いや、あるいは短く話したからこそこの程度の時間で済んだのかもしれないが。長く話されていたら日を跨いでいたのかもしれない。『短い』という主観に任せるのではなく、ちゃんと『40秒で済ませろ』や『3分間だけ待ってやる』という時間指定をすれば良かったな、というのは狼の反省点でもある。まぁ、それでも常識的な『短さ』というのはあるとも思うが。

 映画1,2本は観れそうな『短い』話を聞かされたことにより、すっかり夜になったこの町は既に寝る準備を始めている。『眠らない町』なんて言葉もあるが、この町は『早寝の町』と言ってもいい。日とともに眠り、日とともに起きる、とまでは言わないが、限りなくそれに近い生活習慣ではある気がする。

 実際、この時間になるともう人通りなどほとんど無い。学校はもちろんのこと、お店などもほとんど閉まっている。彼らが帰路で通っている商店街も例に漏れず、ほとんどの店が営業時間を終えた健全なシャッター商店街と化している。今この商店街で仕事をしているのは商店街の街灯くらいだろうか? いや、チカチカと点滅を始めたところを見るに、街灯さえも仕事を終えようとしているのかもしれない。

 そこまでまだ夜遅い時間帯、というわけでもないのだが、この町の人が夜出歩かないのは単純に明かりが無いから、というのがあるだろう。お店の明かりなどを失うと頼れる明かりはほとんど街灯の明かりのみ。そこから離れてしまうと、夜空の微かな明かりしかなくなり、何かライトなどの光源を持っていないとロクに道も歩けない状態になる。夜遊びと言うのは夜遊べる場所があるから成立するのであり、夜遊べる場所どころか、光っているところも無いような場所だと人は日が暮れる前に家に帰るのである。何故か? 日が暮れると暗くなって物理的に帰れなくなるからである。その後、家で夜遊び(夜更かし)をするかはまた別として。

 そして、日が暮れてから帰路についているこの二人は、今リアルに帰れなくなるんじゃないかと若干の恐怖である。一応、家に着くまでの道のりにずっと街灯がありはするが、この商店街もそこそこに長い。今チカチカ点滅している街灯が消えると商店街中真っ暗になるので結構致命的である。チカチカ点滅しているだけでも、一瞬辺りが完全に真っ暗になって恐怖だというのに。

「怖いねー」

「怖いなー」

 人間、暗い所は怖いものだ。これで隣が女子とかであれば奮い立たせてカッコつけたかもしれないが、隣が男子ではカッコをつける意味も必要も無い。怖いものは怖いと言わせてもらう。

「手、繋いでもいい……?」

 羊が精いっぱい可愛い声を出して言う。なるほど、怖いのか。友達が怖がっているのだ。友人の回答など決まっている。

「殴ってもいいなら」

「こわーっ」

 さらに怯えたようだが、狼からすれば当たり前の回答である。何が悲しくて同い年の男子と仲良く手を繋がなくてはならないのか。そうしないと世界が滅ぶと言われても少し悩む案件である。

 話していないと怖いので、そんな冗談を言い合いながら二人並んで歩いていると、


 不意に、点滅していた街灯が滅から点かなくなった。


 視界を奪われパニックにならなかったのは流石と褒めてもらいたいところだ。いや、パニックになっていたことに気付かないほどにパニックだったのかもしれないが。点滅の間の暗闇で少しは暗闇に慣れていた、というのもあるのかもしれない。

 視界ゼロの状態で歩き続けるのは危険だと、お互い何を言うでもなく理解したのか、お互いの足を止める。一応真っ直ぐ進めば商店街は抜けるハズではあるが、平衡感覚を失いそうな暗闇の中で真っ直ぐ歩くのは難しく、何かにぶつかりそうで危険であろう。

 何か光になるものあったかな、とお互いに探していると、幸いなことに街灯が再び点いた。

 この時間が一瞬だったのか結構長かったのか、は分からない。体感的には長く感じたのと、少なくとも点滅の間が伸びたのは確かだ。不幸中の幸いと言うべきか、一回落ちて機嫌を直したのか、街灯のチカチカ点滅が直っている。

 ほう、とお互い安堵のため息を吐いたのも束の間、

「おうわっ!?」

 羊は声に出して驚いて盛大に飛び跳ねた。

 街灯が点滅している不明瞭な光であったことと、相手の服装が暗い色のため闇に紛れて気付かなかったようだが、すぐ近くのシャッターが閉まっているお店の前に人が居た。気付かなかっただけなのだろうが、羊の感覚としては突然現れたに近い。

 簡易的な机を広げ、その前に簡易的な椅子を置いて腰かけている。特に看板などは設置していないが、雰囲気作りのためか顔が見えないほど目深に被ったフードやこれ見よがしに手をかざしている水晶玉を見るに占い師か何かだろう。水晶玉の周りにもそれっぽいアクセサリーのようなものが並べられている。

「しっしっし」

 顔は見えないが、声から察するに女性だろうか? 声だけの印象だとそれほど歳は彼らと離れていないような気がする。この時間帯だと人通りもほとんど無いだろうし暇だったのだろうか? 構ってほしそうにこれ見よがしに怪しげな笑い声を発してくる。

「「………………」」

 しかし、彼らは無視を決め込み歩き出す。目も合わせてはいけない。知らない人に話しかけられても返事してはいけないと義務教育で習っている。まぁ、さっき悲鳴を上げているから存在に気付いてしまっていることはバレているようなものなのだが。

「しっしっしっ!」

 聞こえていないと思ったのか、相手は音量を上げてくる。昼間の人が居る喧騒内であればともかく、自分たち以外人も居ない静まり返った夜だ。当然聞こえた上で無視している。だからボリュームを上げられてもやることは一緒。無視である。

「「………………」」

 そうして、フードの人物の前をそっと通り抜けた瞬間、

「しっしっしぃっ!!」

「(サッ)」

「いたぁいぃっ!?」

 背後からぶん投げられた水晶玉を狼がサッと避けた結果、その水晶玉が羊の後頭部に思いっ切り直撃する。アホみたいな質量の不意打ちに羊は後頭部を押さえて悶絶しながら地面に蹲る。

 目の前、正確には足元で友達が悶え苦しんでいるのだ。当然、友人としては激怒する。

「何すんだっ! 俺に当たったらどうするんだっ!?」

 ホント、友情って素晴らしいなー、と羊が白い目で思っていると、フードの人物も強気に、水晶玉が無くなった机のスペースに足をドーン! と置き、

「人通りの少ない路地で怪しい人物がこれ見よがしに怪しげに笑ってるんだから話かけんかいアホンダラァッ!!」

「あんたの今の言葉のどこに話し掛けたくなる要素があったんだよっ!! アホなこと言ってんじゃねぇっ!!」

「あんだとぉっ!? アホって言う方がアホなんだっ!!」

「じゃあお前の方が先に言ったからお前の方がアホじゃねーか、アホーッ!!」

「また言ったなぁっ!? 上等だこの野郎っ!! どっちがアホか決着付けてやろうじゃねーかっ!!」

「面白れぇっ!! 頭の良さは結局腕力で決まるんだっ!!」

 何か頭上近くでアホ二人が取っ組み合いを始めたので身の危険を感じた羊は、

「待て! 待て待て待てっ! 喧嘩を始める前にまず水晶玉を投げたことと躱して僕にぶつかったことを謝れっ!!」

「「え~っ」」

「『え~』じゃないっ!! ハモるなっ!!」

 アホ二人は取っ組み合った姿勢のまま羊の方を見てくる。

「いやいや、投げたコイツはともかく、避けた俺は何も悪くないだろ。コイツだけが謝るべきだ」

 狼に指を指されたフードの人物はいやいや、と首を横に振るう。

「何言ってるんだ。ワシは別にどっちに当たっても、もっと言うと別に当たらなくても良かったんだ。ワシのことを無視しようとしとるから、存在をアピールしただけのこと」

 当てといて、当たらなくても良かったとは凄い言い分だな、と羊は思ったが何故か狼は頷いている。

「ほう、要するに当てようと思ったわけじゃないってことだな?」

「そりゃそうじゃろ」

「なるほどな。ってことは、これは事故だな」

 狼は取っ組み合いを解いてフードの人物の肩をポンッと叩く。羊は思う。は? だが、フードの人物は顔こそ見えないもののきっと満面の笑顔をしているだろうな、ということが分かるほど嬉しそうな声音で上機嫌に頷いた。

「うん、そうなの」

 話が事故でまとまりそうだったので羊は慌てて割って入る。

「なわけあるかぁっ!! どういうロジックでそうなったっ!? 今っ!!」

 羊としては上訴したいほどに納得できかねる話の流れであるが、このアホ二人は仲良く肩を組みだして、

「だってなー? わざとじゃないんだもんなー?」

「なー」

「何急に仲良くなってんだっ! 人様の頭に向けてあんな思いっ切り振りかぶっておいて、わざとじゃないなんて話が通るかいっ!!」

 羊が不満ブンブン丸で怒っていると、流石に悪いと思ったのか、フードの人物がトテトテトテー、とこちらに寄ってきて、

「ごめんねー、わざとじゃないのー、ゆるちてー?」

「信じられないくらい可愛い声出してもダメなものはダメッ! 謝りなさいっ!!」

「チッ、クソが」

「こーわっ! 今の声のトーンこーわっ!!」

 その前のセリフとの落差もあったのかもしれないが、ドスの効いた声音だけで羊は身の危険を感じてからだ中に鳥肌が立った。怯んで羊の文句が止まったのをいいことに、フードの人物は盛大に開き直る。

「つかさー、避けなかったお前が悪いんじゃね?」

「はっ!?」

「だってコイツ避けたじゃん」

 フードの人物が狼を親指で指出すと、狼も頷く。

「それな」

「どれなっ!? 何アホ二人が手組んでんだっ! 言っとくけどその手の被害者の方が悪い的な論調には徹底抗戦させてもらうからなっ!!」



 徹底抗戦した羊ではあったが、世の中の論調を変えるのはかくも難しいものであった。間違っている意見でも多数であれば正しくなるという民主主義の欠陥により、2対1で避けなかった羊が悪い、という結論にされてしまった。国家転覆を企てたくなる程度には羊にとって不満な結論である。

 ぶつけられた挙句責められる可哀想な敗者に同情したのか、今更ながらに加害者としての自責の念が生まれたのか分からないが、フードの人物は先ほどまでよりは幾分優しい声音を出して、

「まぁ、壊れた水晶玉の弁償は勘弁してやるか」

 訂正。ぶつけた挙句壊れた水晶玉を弁償させようとする鬼畜であった。ってか水晶玉が砕けるほどの威力で投げられたのか、そりゃ痛いわけだ。

 フードの人物が地面に散乱した水晶玉の欠片をちりとりで拾い集めていると、狼が興味深げに、

「水晶玉を持ってるってことは、あんた占い師なのか?」

「占い師、ではないが、占いはできるぞ。会ったのも何かの縁だし、占ってやろうか?」

「水晶玉砕けてるが?」

「雰囲気作りに用意しただけで使わないから占いをする分には問題無い。そこそこ高価なもんなのでそっち的には痛いが」

「どんぐらいすんの?」

「4桁かな」

「4桁? ……相場分かんないけど、意外と安いか?」

「うん? ああ、いやいや。4桁×万ね」

「はっ!?」

 そんなすんの、って驚きと、そんなもん投げるなよ、って驚きが混じってそうな声で狼が驚く。桁が大き過ぎて冗談としか思えないのだが、フードの人物は大袈裟に言うでもなく淡々と値段を言ったので、冗談だったのか本当なのか何とも怪しいラインである。フードの人物は集めた水晶玉の欠片をバッグの中にそのまましまうと、

「おいそこの敗残兵。可哀想だから占ってやろう」

 誰のことを言ってやがる、と羊は辺りを見渡したが、狼もフードの人物も当たり前の顔をして羊の方を見てくる。いや、今そこ二人で話してたじゃん。何で巻き込まれたし。という不満とは別に、

「可哀想だから占うってどういうこと?」

「見ている限りで可哀想な目にしか合ってないから、慈悲の心で少しでも改善するように占ってやろうってことじゃ」

「可哀想な目に合わせている人に言われたくないのだけど。あなたが一言『ごめんなさい』と謝ってくれるだけで、ここ数分で起こった僕の可哀想なことは報われる気がする」

「それは無理じゃ、諦めろ」

「『ごめんなさい』が言えない大人にはなりたくない、と僕は今日強く誓うことにした」

「ごちゃごちゃうるさいなー。本来大金貰ってやるものを、特別にタダでやってやろうって言うんだ。分かったら感謝してワシの足でも舐めろ」

「ねぇ、本当に僕のこと可哀想って思ってる? 可哀想の上塗りしてない? これ占いって称して罵詈雑言浴びせられて僕もっと可哀想なことにならない?」

 顔の前に突き出された裸足が恐怖の羊である。というか裸足? 靴どうしたの? この人。まぁ、流石に冗談だったのか、足を舐められることが普通に嫌なのか、羊の顔の前に突き出していた足をフードの人物がそっと下ろすと、

「まぁ、占うまでも無いまであるがな。学生の悩みなど相場は決まっている」

「ほう?」

「例えば勉強」

「こう見えて成績上位陣よ」

「例えば部活」

「こう見えなくても帰宅部よ」

「例えば恋愛」

「………………」

「…………恋愛」

「………………」

「分かりやすいな、お前」

 特別な話術を使わなくてもあっさりと羊の悩みが発覚したので、フードの人物は机の上に並べてあったアクセサリーをどれがいいかなー、っと物色した後、

「そうしたらこれをやろう」

「? 指輪?」

 渡されたのは凝った装飾などがあるわけでもない、シンプルなフツーの指輪だ。

「これは?」

「人様の恋愛になんてクソほども興味が無いから細かく聞きたくもないが」

「占い師辞めた方がいいと思う」

 占い師への相談のほとんどが恋愛相談だと思う。『ワシ、占い師じゃないし』とフードの人物は正論を言った後、

「どうせモテたいとかその手のバカみたいな願いだろ。大体モテたいモテたいと言っているやつに限ってモテるための努力を何もしないでモテないと文句ばっか言ってたりするがな。努力していないならモテるわけないだろバカめがっ!」

「過去に何かあったの? 後何か知らない第三者に対する怒りの矛先が僕の方向いてない?」

「まぁ、雑に言うと、この指輪を身に着けると、努力しないでモテたいとだけ言っている世界の底辺みたいな男でも、世界最高峰にモテるようになる、という代物じゃ」

「絶対過去に何かあったな。まぁ、僕も聞かないでおくけど。この指輪がねぇ……」

 明らかに信じてない顔をする羊。彼としてはそもそも占い自体が半信半疑だったりするわけで、そこに加えてそんな不思議な力を持った指輪の話などされても眉唾ものでしかない。そんなのでモテたら誰も苦労しないのだ。というか、

「占われた後に物渡されると詐欺にしか見えないのだが……」

「金も取ってないのに失礼なこと言うな。大体占ってさえいない。適当に喋ってたらそっちが勝手に自爆したんじゃないか」

 腐っても占い師(占い師ではないらしいが)。人の深層心理を引き出す話術(百人が百人聞き出せたという説あり)は流石ということか、と羊は相手が凄いということにしておくと、

「別に副作用が怖い怪しい薬を渡したわけでもなし。高額な金で売りつけているわけでもなし。無料で装飾品を渡してやってるんだから黙って試しに付けてみるくらいのことできんのか、お前は」

 所々言葉の端に棘はあるものの、まぁ確かに、モテる云々は置いておいても、水晶玉をぶつけられたお詫びに指輪を貰った、とでも思っておけばいいのかもしれない。とはいえ、羊はその手のアクセサリー、かさばるのであまり好きではないのだが。

 ほらしっかり持て、持たないと指に縫い付けるぞ、と恐ろしいことをフードの人物に言われたので、羊はやや納得はいっていない部分はあるものの、とりあえずは受け取ることに。

「いいか、指輪って言うぐらいだから身に着けないとその効果は発揮しないからな。指に付けるか、紐通して首から下げろ。逆に言うと、モテ過ぎて困ったら指輪外せば効果は消える」

 モテ過ぎて困る、何とも言ってみたい甘美な言葉である。持っているだけでは意味がないぞ、というワードに関してはRPGとかでよく聞く文言だな、と彼が思っている間にも説明は続く。

「効果は異性に対してのみ有効だ。同性には効かん。……ん? 同性にモテた方が良かったか? であれば同性用のもあるぞ」

「いえ、異性がいいです」

「あ、そ。女好きそうな顔してるもんな」

 ……してたかしら? 羊がそっと鏡で自分の顔を確認していると、

「ああ、あと、指輪の力には個人差があるからな。効かない人には効かないから悪しからず。まぁ、そんなにケースとしては多くないけどな」

「出た、個人差。全ての効能をうやむやにするマジックワード。どーせ効果が出なかったら個人差がありますから、って言うんだろ。あーやだやだ」

「言いたいことは分からんでもないが、効果に個人差の無いものなんて作れんぞ。何事にも例外は出てくるんだ」

 まぁ、確かに。読めるか読めないかくらいの小さな文字で注意文言として書かれているよりは、ハッキリとこうして目の前で言われている分、良心的なのかもしれない。

「以上。説明終わり。何か聞きたいことある? 無いね?」

「早い早い早い。締め切るのが早い。質問を考える時間をくれ」

「考えるな、感じろ。何事もまず始めてから考えろ」

「質問を確認した意味とは?」

「形式的にでも聞いておかないと怒られるからだ」

「清々しいくらい正直だな、君。……ってか怒られる? 誰に?」

「お前は知らなくもいい相手だ。文句言うなら自分でやれって話なんだがな。方針だけ現場の意見も聞かずに一方的に決めるくせに、いちいち文句だけ現場に言って来てまったくもう」

 何だ? 社長のワンマン経営でいきなり方針を変えられたサラリーマンみたいなこと言い出したぞ? 機嫌が悪くなった気配を感じたので、羊がこれ以上下手に突っかからないようにしようと思っていると、フードの人物は一回咳払いをし、

「まぁ、明日・明後日くらいまではまだこの町に居るから、何かあったら聞きに来いよ。どのみちもうこの時間のこの人通りじゃ指輪の力なんか試せないだろ」

「『この町』って簡単に言うけど、小さな町とはいえ、どこに居るかも分からない一人の人物を簡単に見つけられるような広さではないのだが?」

「それで会えなければご縁が無かったってことだ。縁さえあれば会いたくなくても人は会える。そういうもんだ」

「ほぅ。……ほう? ……いやちょっと待て。それっぽいこと言って煙に巻こうとしてるな?」

「うるさいなぁ。何で何か起こる前から何か起こった時のことを考えるんだ。何か起こった時はその何かが起こった時にでも考えればいいんだ」

 うーむ、何か理屈が通っているような通っていないようなことを言われる。まぁ、でも確かに。現時点で何か質問があるか、と言われればパッとは思いつかない。それにそもそも、そんな力が本当にあるのかも疑わしい指輪についてあれこれ考えても時間の無駄か。

 羊が黙ったのを納得と受け取ったのか、フードの人物は、

「まぁ、騙されたと思って、明日一日だけでも指輪付けて街歩いてみろよ。きっと世界が変わるぜ?」

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