第22話 おめでとう

 シレア城の生活は基本的に質素である。王族が代々、華美を好まないため、大食堂も賓客がある時や祝典、外交などの他は使われない。

 ところが、政務も済んだ時間だというのに大食堂から光が漏れている。

「お二人とも、何なさってるのですか」

 不審に思った遅番の衛士が覗き込むと、王女と王子が揃って忙しげに動き回っている。

 しかもそれぞれ生花や飾り紐、上質な敷き布を手にし、食卓や椅子を端から飾り付けていた。

「何かありましたっけ!? 係の者がやってなかったとか?」

 業務怠慢かと衛士の背に冷や汗がどっと流れるが、二人は「違う違う」と首を振る。

「明日、ロスの誕生日だろう」

「ちょうどよく外の業務が少ないからね、驚かせてお祝いしようと思って」

 言いながらも手を休めず、その様子は実に楽しそうだ。主人手ずから仕立てられていく装飾に、衛士は怒った声を出す。

「そんなことなら、どうしてお二人だけがなさるんですか!」

 きょとん、と二人が動きを止めた。

「ずるいですよ、他もみんな呼んできますから、ちゃんと仕事取っといてくださいね!」

 世話になっている王子側近である。衛士団の面々も、祝いの準備に参加できなかったとなれば泣いて悔しがるだろう。


 ***


 苦労人とばかり思われている従者ですが、人一倍大事にされているのも確かです。

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