第20話 腐れ縁
「ねえ料理長。お忙しいところ申し訳ないけど、お願いがあるの」
城の厨房に勉強を終えた王女が顔を出す。さして珍しいことでもない。料理長は包丁を研ぐ手を止めずに返事をした。
「今日のおやつは姫様の好きな栗の焼き菓子にしましたが、殿下は別のものの方が良かったかのう」
「いいえ、嬉しい! お兄様とも食べたいって話していたところよ。でも」
そうじゃなくて、と王女は厨房の中までやってくると、入り口近くの高椅子に寄りかかる。木目が剥き出しの座は硬くて冷たい。
「材料があったら柑橘の果汁で濃いめの蜜煮にできない? 大臣がね、好きなの」
朝から咳き込んでるの、王女の紅葉の瞳が翳った。
石壁の厨房には、しばし砥石の擦れる音だけが響く。
「……もうそこに出来とりますよ」
料理長は振り向きもせず、ぶっきらぼうに言う。作業台の上を見た王女の相好が崩れる。丸盆の上に瑞々しい檸檬の蜜煮と薬茶が載っていた。
***
普段は喧嘩ばっかりしていますけれどね。
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