第16話 腕時計

「よし」

 カチ、と留め具が嵌り動かなくなる。王女は手を目線の高さまで上げた。昼の日差しを受けた時計の文字盤で、星屑の模様が宝石のようにきらめく。

「あれ? 王女さま、シレアに動く時計は一つしかないのじゃないですか?」

 お茶を手に入ってきた侍女見習いの少女が目ざとく見つけ、大きな目を開いて首を傾げる。

「これは動いていないのよ」

「ええ? 役に立たない時計ですか?」

 王女は細い手首を揺らし、色を変える文字盤を眺めた。

「役に立つとか立たないとか、そういうのとは関係ないもの」

 大事な友人の、大事な思い出がここにある。

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