第7話 まだ残る温もり

 長距離線の車体がホームに入ってくる。大きなトランクや鞄を持った人たちが、列車の出入り口前に列を作り始める。

 ほころびかけた運動靴の紐を締め直し、少女も列に加わろうと人の流れに乗った。

 学生用の周遊切符は全席指定。確か窓際だったはず。車内の狭い通路を行きながら、少女はポケットから切符を引っ張り出す。

「お嬢さん、落ちましたよ」

 後ろから親切そうな婦人が声をかける。言われて下に目をやると、小さな円盤が座席の上に転がっていた。

 礼を言って拾い上げる。手のひらに収まったそれを、少女はすぅっと撫でた。

「綺麗なコンパスですね」

「はい」

 円盤の面に施された装飾が星屑のように光る。

 指に触れる面はまだ少し温かい。そして少女の指先は、まだあの時の温もりも覚えている。

「私の、とても大事なものです」

 針は正しく、迷うことなく北を向く。

 ——シードゥス……

 意志の強い濃紺の瞳を思い出しながら、少女はそっと、小さな宝物にキスをした。



 ***


 ウェスペル、思い出す。

 やっと、その後のこの子が描けました。

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