第6話 見守る
呆れと小言の混ざった呟きが廊下の向こうから近づいてくる。声の主は城勤めも長い重鎮中の重鎮であり、常と同じく今日もしかめっ面だ。
「大臣、またどうなさったの。予想はつくけれど」
「ああ王妃様。王妃様を煩わせたくはありませんが、お昼に姫様を街にお連れしたらまたしてもお供した者に自由時間をせがんで何処かに行かれたと」
困り顔の老人とは逆に、王妃はふふ、と笑みを溢す。
「やっぱり。元気ね、アウロラは」
「そんな王妃様、王族がやたら市井の者と慣れ親しんでは示しが」
「いいじゃないの」
シレア国前国王の逝去は早かった。若い頃より良策を出し、民の生活を潤わせたが、流行病には勝てなかった。
最愛の伴侶を亡くした妃の悲しみは深い。それでも、彼女は泣き崩れて止まりはしなかった。息子と娘が担う時代の訪れを準備するため、やるべきことがある。我が子二人が自由に過ごせる時間はあといかほどだろう。
「あの子たちなら街の様子を自分で学んでくるでしょう」
自らの力など、のびやかに育つ彼らには微々たるものかもしれないが。王妃は大臣の手から会議室の鍵をひょいと取り上げる。
「大丈夫、アウロラはお勉強の時間に、カエルムも夕方の会議には間に合うよう戻るはずよ」
軽く言い置き、王妃はくるりと背を向けた。
「あの頃と変わりませんな。そうでしょう、王妃様」
今日も廊下を行きながら、大臣はありし日をしみじみと反芻する。
「何度申し上げても思ったとおりに行動していらっしゃる。確かに勉学の時間には姫様もお戻りになるし、殿下も……」
そこでふと思い至って、柄にもなく「あっ」と叫び声を上げた。
「まさかよもや殿下までもが!」
気付くのが遅い。
***
第三話の続きです。亡き王妃様、優しく見守るお方でした。大臣はそろそろ学んだほうがいい。
城の他の人々、王子王女の街遊びをあまり問題視していません。
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