第5話 仕事始め

 昇った陽はいつしか空気をやわらげ、執務室に暖かな光を届けていた。仕事を始めた王子が机を照らす光に気がつき日除けの布を引く。

「殿下、今日の昼の会議に持っていく書類ですが」

「もう出来ている」

 入室してきた従者が聞くと、王子は机上の書類の束を持ち上げた。

「あぁ早いですね。じゃあこれ大臣のところに持っていってから城下へ例の通達文を」

「それも起草済みだ」

 今度は別の用紙を引き出しから取り出して見せてやる。従者は額を押さえていた指を離し、目を丸くした。

「ずいぶんまたどれもこれも……寝てます?」

「大丈夫。ロスが気遣いしてくれているおかげで」

 朗らかな言葉の裏は、言われなくても分かる。参ったな、と従者は顔を背けた。

 実は寝ていないのは自分の方なのだ。


 ***


 常に王子を気遣ってばかりの従者に対する、王子の気配り。

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