部屋と水着と『お仕置き』

「ねえ、陽葵さん。」

「何?」

「夏休み中に海とかプールって行きませんでしたね。」


 私の部屋に来て早々に、彼女はそんな話を切り出した。確かに海やプールと言えば、夏に遊びに行く所の定番と言える。勿論、デート的にも定番だ。水着を褒めたり褒められたり、普段見えない様な箇所の素肌が見えてドキドキしたり、多く触れ合う事だってあるだろう。まあ、これは学校の友人から聞いた物だけど。


「そうだね。うーん、うちで過ごすのも良いけど、たまにはそういう所でデートしたいよね。」

「はい。でも夏も過ぎちゃいましたし、当日に誘うのも悪いかな、って思って。ちょっとだけプール気分になれそうな物を用意してみました。」

「え、まさか子供用のプールとか? あの、膨らませるやつ?」


 確かに彼女は普段背負っているウサギ型の鞄の他に、プール用と思しきビニールの手提げ鞄を持ってきていた。今はテーブルの脇に置いてあるが、その中に彼女の言うプール気分になれるグッズが入っているのだろう。

 ただ、彼女は同年代の常識からどこか外れていると言うか、遅れている所がある。だから私は、幼い子が使う様なビニールプールを持ってきたのではないかと思った。彼女なら有り得る。友達になってすぐの事、遊びの件でおままごとを例に出してきたのを忘れてはいない。でも、その心配は杞憂だった。


「あはは、違いますよ。持ってきても置く所無いじゃないっスか。多分、もっと陽葵さんが喜びそうな物っス。じゃあ、脱ぎますね。」

「……うん?」


 最近は結構マシになったと思っていたけど、どうやら私の頭は相変わらず変な事を考える様だ。脱ぐとか聞こえたが、きっと私の残念な頭が聞き違えたのだろう。普通、会話の途中でそんな突拍子も無い事を言うはずも無い。

 ぱさりと、乾いた音がした。下の方を見れば、彼女の足首には淡い色合いの布が落ちている。一瞬の間、それが何なのか分からなかったが、彼女が穿いていたスカートであると気付く。丈の長いシャツの裾からは細く美しい太ももが露わになっている。目の錯覚などではない、本当に服を脱いでいる。


「なんで急に服脱いでるの!?」

「……あ、そっか。どうせなら脱がしたいんスよね?」

「いや、それは、その。したいけど。……そうじゃなくて! いきなり脱ぎ始められたらびっくりするでしょ!」

「ちゃんと脱ぐって言いましたよ?」


 言いながら、キャラクター物のシャツも脱いでいく。果たしてその下に、下着の姿は無かった。しかし素肌の露出はむしろ少なく、彼女の体は紺色で覆われていた。


「どうスか、これ。」


 それはスクール水着であった。上下に分かれたセパレートタイプだ。腰に大きなフリルが付いていて、短いスカートの様にも見える。

 だが所詮はスクール水着。フリルが付いているとは言え、一般的な水着と比べて色合いもデザインも地味だ。似たような物を自分や周りが着ていた頃には何も思わなかった。

 だが素晴らしきかな、スクール水着。彼女が着ていると言うだけで全くの別物と化す。幼い体を秘匿する紺の生地と、そこから伸びる細く滑らかな肢体のコントラスト。愛らしい姿の中にそこはかとなくエロスとフェティシズムを感じる。


「陽葵さん。反応くらいしてくださいよ。」

「あ、あぁ、ごめん。見惚れちゃってた。すごく可愛いよ。学校のでもこんなに可愛いなんて、びっくりしちゃった。」

「……えへ。ありがと。」


 少し呆然としてしまった。スクール水着にここまでの魅力があるとは思わなかった。後で動画でも探してみようか。いやいや、浮気は良くない。これは彼女だから良いのだ。たまに頼んで着てもらうくらいにしよう。

 しかし、この姿を彼女の同級生は何度も見ているのか。そう思うと羨ましくて仕方が無いが、自室で水着姿を見ているのは私くらいだろう。水場でも無いのに水着を着ていると言うのはちょっと興奮する。これは所謂コスチュームプレイと言うやつではないだろうか。


「そんなわけで、プール気分を味わうために着てきたんスよ。だから陽葵さんも着替えて欲しいんスけど。」

「ごめん。私、水着持ってないんだ。どこか泳ぎに行くとか無かったし、うちの高校は水泳も無いから。」


 主旨は分かったけど、彼女に告げた通りに、私は水着を持っていない。中学時代の水着は使わないと思って祖父母の家に置いてきてしまったから、それを着る事も出来ない。残念ながら、彼女に合わせる事は出来ないわけだ。


「じゃあ、来年は水着も見に行きましょう。お互いの選んだりとか、楽しそうじゃないっスか?」

「あはっ、良いね。別のを着てるとこも見てみたいな。」


 一年後も付き合い続けている事を前提とした提案だった。彼女はそれを当たり前の様に言ってくれる。内心で嬉しく思いながら、同時に少しだけ不安になる。この日々は、彼女が目標を達した時に終わってしまうのではないか、と。だって、彼女が私にここまで固執する理由が無くなってしまう。その先でも、傍に居てくれる保証なんて無い。

 その時が来ても、『最高に幸せ』なのだと、私が言わなければ良いのだろうか。そうすれば、いつまでもこの幸せな日々は続く。いいや、それは駄目だ。再び彼女を追い詰めかねない。もう、消えてしまいそうな彼女を見るのは嫌だ。それも、私の所為でなんて。

 ああ、いけない。どうしてすぐにネガティブな事ばかり考えてしまうのだろう。その日は遠いとは言え、彼女はデートの提案をしてくれたのだから、もっと楽しい事を考えよう。海かプール、そして水着選びと、二回もデートが出来るのだ。今から来年の夏が楽しみなのは間違いない。

 彼女にはどんな水着が似合うだろう。色々な物を着せてみたいけど、やはり可愛らしいワンピース型が似合いそうだ。逆にビキニなどの布面積が少ない物も捨て難い。小さいのに大人ぶった水着を着ている姿を想像すると、唆る。


「んー、でも水着が無いなら仕方ないっスね。陽葵さんはそのままで良いっスよ。」


 そう言って脱いだ服と靴下をビニール鞄の中に仕舞うと、彼女はベッドに上がってぺたんと座った。


「水着で部屋に居るのって、なんか変な感じしますね。」

「うん。私も、見てるだけなのに落ち着かないよ。」


 水着姿の彼女はとても可愛らしいが、見慣れないのも確かだ。それも、部屋の中でそんな格好をするなんて機会は普通であればほとんど無いだろう。

 何を思ったのか、彼女は口元をにやりと歪め、くすくすと笑い始めた。条件反射的に、私の情欲が掻き立てられる。


「……へえ。落ち着かないんだ? 興奮してるだけじゃないんスか?」

「えっ、ごめん、そういう意味で言ったわけじゃなくて。」


 意表を突かれたのもあるが、小悪魔となった彼女を前に考える余裕なんて無くて、先程思っていた通りに答えてしまった。これが良くなかった。

 一転して彼女は不機嫌そうに口を尖らせた。それを見て、背筋がひやりとする。彼女が誘っていたのに、それを蹴ってしまった事に気付く。冷静さは戻ってきたけど、別の意味で余裕は無くなった。


「……そうっスか。スイマセンね、魅力無くて。」

「待って待って、興奮もしてるよ? 今の結華ちゃん、いつも以上に魅力的だと思うよ?」

「知りませーん。言うだけなら簡単っスもんねー。」


 彼女はうつ伏せになって、枕を両手で掴んで顔を埋めた。駄目だ、拗ねてしまった。

 彼女はいつも魅力的だし、普段と違って特別感のある格好をしているのだからその魅力が更に高まっているのは間違い無い。それに恋人が水着姿で、しかもベッドの上に居るのだから、当然興奮するに決まっている。弁解になってしまうけど、これは嘘ではない。ただ、先程は見慣れない事について落ち着かないと言っただけなのだ。


「結華ちゃん、ごめんね? ねえ、許して?」

「……許して欲しいなら、口だけじゃないって教えてください。」


 枕元に近付いて謝ると、少しだけこちらに顔を向けてくれた。でもそれだけ言うと、また枕の方を向いてその顔を押し付けた。

 多分、ちょっと拗ねているだけでそこまで怒っているわけではないと思うし、すぐに許してくれるのだと思う。だけど彼女の言葉から考えるに、私が何を言ってもこの状態から戻るつもりは無いみたいだ。つまり、行動で示せと言っているわけで、彼女からの誘いはまだ続いている。

 二度も不意にするつもりは無い。彼女の頭を撫でながら、私はその耳元に囁いた。


「拗ねてる結華ちゃんも可愛いけど、拗ねたままじゃ困っちゃうから。……触るね?」


 彼女からの反応は無い。私はそれに構わず、彼女の頭から手をそっと動かして、指先を首筋に伝わせる。ぴくりと震える彼女を余所に、すべすべとした二の腕にキスを落とす。甘噛みをする様に唇を動かしながら、少しずつ内側へと向かう。そうして辿り着いたのは、丸出しの腋。


「いつもは私ばっかり匂い嗅がれてるから、これはお返しだよ? ……あはっ、ちょっと臭うね。」


 一方的に話しながら、わざとらしく音を立てて匂いを嗅ぐ。私が感じている恥ずかしさを分かってくれるだろうか。でもそんな事より、彼女が赤面しているかが気になる。枕で隠されていて分からないけど、もし恥ずかしがっているなら、絶対に可愛いと思う。

 息を吸う度に、鼻の奥が少しつんとする。いくら大好きな彼女の物であっても、やはり腋は良い匂いとは言えない。だけど、嫌だとは思わなかった。綺麗な所ではなくても、彼女の一部だと思うと愛おしい。

 だから私はそこにもキスをした。ゆっくりと舌を這わせて、滲んだ汗を舐めとる。くすぐったいのだろうか、それとも感じているのだろうか。逃げる様に身を捩らせる彼女は、何も言わない。逃げられない様にその腕を両手で掴んで、丹念に舐り尽くした。


「でも、美味しい。……なんてね。」


 本当に美味しいわけではない。良いのは感触くらいな物で、少し刺激臭がするし、味だってしょっぱいだけだ。

 でも、震えながら逃げようとする彼女を見ていると、堪える様な息遣いが聞こえると。それが楽しくて仕方が無い。最近はあまり抱いていなかった悪戯心が疼いてしまう。もっと彼女の反応が見たい。もっと彼女の可愛い所を見たい。


「これ、すごく短いスカートみたいだよね。水着だって分かってても、中が気になっちゃうよ。」


 私は一度体を起こして、彼女の下半身を見遣る。彼女の腰に付いたフリルをそっと捲ると、紺色に包まれた愛らしい双丘が顔を出す。その上に頬を乗せれば、彼女はまたもや体を震わせた。

 至高の枕を発見してしまった。この枕カバーの触り心地も悪くない。あまり重くすると可哀想だから、頭を預け切れないけど。

 中身の方はどうだろう。紺色と肌色の隙間に指を差し入れる。柔らかいのに弾力がある。カバーの締め付けと枕本体からの反発が癖になる。そして何よりも、このきめ細やかな手触り。紺色の生地を少し捲って、むにむにとしたそこへかぶり付く。勿論、強さは甘噛みに留める。薄らと付いた歯型を舌先で弄ると、双丘は逃げる様に揺れ動く。


「あはっ、ここも美味しいね?」


 味なんて無いに等しい。私が食べているのは体ではなく、彼女の反応だ。そちらはとても可愛い味がする。もっと、もっと味わいたい。

 小振りなお尻から更に下へ、指先で太ももをなぞって膝裏、ふくはぎを通って、足首を掴んだ。確りと、逃がさない様に。


「結華ちゃん、たくさん走ってたんだよね。この足も、きっとすごく鍛えられてるんだよね。……でも、こういうのにも強いのかな?」

「ちょっと、そこは――」


 ようやく言葉を発した彼女に構わず、私は舌を伸ばした。ソフトクリームでも舐める様に、捕えた足の裏を愛撫していく。指の一本一本を咥えては吸い付き、舌を絡ませる。


「やっ、嫌だ、足なんて、汚いからぁ……っ!」

「んっ……。じゃあ、私が綺麗にしてあげる。」


 大して汚れているとは思わない。汗の所為でしょっぱいけど、それくらいだ。臭いわけでもない。何よりも、大好きな彼女の足だから。舌で舐めるのに、抵抗は無かった。

 彼女の足はやっぱり小さくて、しかしどこの皮膚も硬い所なんて無かった。陸上競技をしていたとは思えないくらいに。部活を辞めて半年近く経てば、別におかしくもないのだろうか。

 いつもとは全然違う、力の抜けた声が聞こえる。それが快感による喘ぎなのかは分からない。でも、もしそうだったなら。すごく嬉しいし、楽しいし、興奮する。だから今は、ふにゃふにゃとした可愛い声を聞き続けたい。


「ひ、陽葵さ、も、やめぇ……っ! げ、限界……っ!」

「……あはっ。ご馳走様でした。」


 左足の全てを舐め尽くして、ようやく掴んでいた手から放した。彼女は体をびくびくと震わせながら、ぐったりとしている。抵抗する力なんて残っていないみたいで、簡単に体の向きを変えさせる事が出来た。

 仰向けになった彼女の息は荒い。こんなに顔が赤くなっているのは初めて見る。頬に触れてみると、すごく熱い。


「ねえ、許す気になってくれた?」

「……陽葵さんの変態。」


 恨みがましくこちらを睨む彼女が、私を罵った。背筋がぞくぞくとする。知らないとは言わせない。その言葉では私を止めるどころか、悦ばせてしまう事くらい彼女にも分かっているはずだ。


「許してくれないんだ? じゃあ、もっとしてあげるね。」

「え、ちょっと、何脱がそうとしてるんスか!?」

「一番汚れてそうなのは、やっぱりお尻の――」

「この、変態っ! ああもう、許す、許しますから! やめてください!」


 下の方の水着を脱がそうとすると、彼女は片方の手でそれを抑えて、もう片方の手で私の頭をばしばしと叩いた。その痛みすらも心地好く感じるけど、強行して嫌われたくはない。すぐに手を離して、彼女の平坦な胸に頬を乗せた。早鐘を打つ心臓の声が耳に響く。


「すごくドキドキしてるね。」

「当たり前でしょ……。そこだけは絶対駄目っス。全く、なんで汚いとこばっかり舐めようとするんスか……。」

「我慢してるの見てたら、ちょっと意地悪したくなっちゃったんだ。ごめんね?」


 私だって同じ事をされたら絶対に恥ずかしいから、それは謝った。だったら最初からするなと言う話なのだが、恥じらう彼女はすごく可愛いので仕方が無い。勿論、本気で怒らせたくはないので、許される範囲で。


「ねえ、気持ち良くなれた? それとも、くすぐったかっただけ?」

「……くすぐったいのと、変な感じが半分。」


 私と出会うまで、彼女は性的な事にはほとんど触れて来なかった。他の事に時間を割いていたので、関心を持つ暇も無かったそうだ。強いて言えば性教育で得た知識くらいは持っていたとか。以前、本人から話された事だ。

 なのに何故私に対して様々なテクニックを駆使出来ていたのかと言えば、そう言った情報や私の嗜好などを調べた上で反応を見ながら実験し、その場で私の体に合う様に最適化していったからだ。そして半月にも満たないほどの短期間で、彼女の技術はほぼ完全となった。

 これを聞いたときには、本当に驚いた。異常な努力が無くとも、彼女の学習能力の高さは本物だ。やっている事の所為でどこか間の抜けた感じになってしまうが、かつて修羅と呼ばれた彼女の片鱗を見た気がした。

 しかし彼女は、自身に対しては何もしていない。だから性的な快感を知らない。私とはまた違った方向で、自慰をする様な欲求も無いみたいだ。


「変な感じって?」

「んー……。鳥肌が立つみたいな、ぞわってする感じ。でも、嫌じゃなかったっス。」

「あ、分かる。気持ち良い時にそうなるよ。」

「あれって気持ち良かったのかな……。やっぱり、私はキスとかハグの方が好きっス。」


 私にしてはかなり攻めたと思うのだが、今回も彼女は快感を認識出来ていなかった。やはり秘所に触れるべきなのだろうか。それが一番分かりやすいのは確かだ。ただ、彼女が私のそれを触れようとしない事を考えると躊躇ってしまう。私が優柔不断なだけかもしれないけど。

 でも、こういうのはあまり慌てても良くない。そもそも、私達は付き合ってから一ヶ月も経っていないのだ。彼女の言う、キスやハグくらいで留まっているのが普通だと思う。それに私だって、恋人的なじゃれ合いもしたい。ドキドキしたり、暖かな幸せを感じたい。


「じゃあ、ちゅーしよ?」

「嫌だ。今したら怒りますよ。」

「ええっ、なんで……?」

「私の腋とか足を舐めた口でキスされるのは嫌だから。」


 拒まれた事にショックを受けてしまったが、理由を聞いて納得した。考えてみれば、自らの汚い場所に触れた物を触りたくないのは分かる。私だって彼女の体だから気にしていないだけで、自分の汚い所に触れた口でキスされるのは抵抗がある。


「うーん、それは確かに嫌だよね。じゃあ、いっぱいぎゅーってしよっか。」

「……ん。」


 私達は体を起こして、正面から抱き合った。普通に抱き締めると包む様になってしまうが、今の様に彼女を膝の上に乗せると丁度良い高さになる。互いの肩に顎を乗せられるし、軽く頬擦りも出来る。元々軽いけど、少しくらいの重さなんて気にならない。ただ、穏やかな幸せを感じる。


「結華ちゃん、どうしよう。えっちな事してる気がしてきた。」

「さっきの方がよっぽどえっちじゃないっスか。」

「うん、そうだけど。水着だから、ちょっといつもと違うのかも。」


 でも、それは普段の格好であればの話だ。今の彼女は水着姿なのである。生地の感触も違えば彼女に触れている感覚もいつもと違う。はっきり言って、非常に情欲を煽られる。先程の続きをしたくて堪らない。

 抱き締めながら、左手を下ろしていく。腰の辺りを撫でながら、私の膝の上に隠れてしまっている部分を探る。しかし座っているので、そこには辿り着けない。どうにかして、もう一度彼女のお尻を触れないだろうか。


「本当は、プール気分ってただの口実だったんスよ。ロリコンの人って、スクール水着が好きらしいじゃないっスか。だから陽葵さんもそうなのかなって思って。」

「いや、うん。そういう目で見た事無かったよ。私も着てたからね?」


 それは他の人の趣味だ。私がロリコンだからと言って、一括りにされても困る。出来れば私の好みを聞いて欲しかった。

 でも私のために用意してくれたのは確かなので、嫌な気分ではない。スクール水着も好きになれたし、決して悪い事ではない。

 こうして水着の中に手を入れると、肌と生地との間に挟まれる感触が素晴らしい。この丁度良い圧迫感も好きだ。背中をゆっくり撫でると、彼女はぴくりと反応する。


「でもね。結華ちゃんが着てるの見たら、好きになっちゃった。なんでこんなに可愛く見えるんだろ。」

「それなら良かったっス、けど……。あの、さっきから何してるんスか。」


 水着の中の左手が胸の方へ向かう。僅かな膨らみの柔らかさが掌に伝わる。それを少し楽しんだ後、先端の突起に指先を置いた。

 そこで彼女は体を離して、呆れた風に私を見詰めた。その視線も私を悦ばせるだけだと分かっているはずだ。胸の辺りがざわりとして、心臓を愛撫されている気分になる。


「興奮してるって言ったでしょ。ねえ、続きしようよ。」

「確かに誘惑してるのは私なんスけど、なんか今日は積極的っスね。いつもはヘタレなのに。」


 彼女の言葉に、私は手の動きで返した。添えただけの指先を、僅かに擦らせる。敏感な所だから痛くならない様に、ほんの少しずつ刺激する。右手は水着の上から、指の腹で大きく撫でる様に触れる。ここは比較的分かりやすいだろうから、彼女に快感を覚えてもらうには丁度良いだろう。私は触ってもらえないので、どんな感じかは分からないけど。

 最初はくすぐったそうにしていた彼女だが、少しずつ吐息に熱が篭もり始める。やがて呼吸は深く荒い物となり、くたりと額を私の肩口に乗せた。その陰に隠れてしまった唇からは、時々愛らしい声が漏れる。先端部の自己主張は強まっていて、少し硬めの感触が指先に伝わる。


「何、もう、胸ばっかり……。」

「嫌? 気持ち良さそうだけど。」

「これが……? なんか、すごくもどかしい、っス。」


 頭を上げて潤んだ瞳でこちらを見詰める。蕩けた様な表情が、私の心をくすぐる。頬に帯びた熱を吐き出す、その唇に食らい付いた。

 水着の下では左手が先端を軽く摘まんで擦り上げ、水着の上では右手が爪を立てて紺の生地の上から小刻みに引っ掻く。彼女の荒い鼻息に混じって、悲鳴にも似た嬌声が私の口内へと響く。

 これほどの反応を得たのは初めてだ。いつも私を責め抜いてくる小悪魔を、今は私が征している。もっと、もっと気持ち良くさせてあげたい。彼女にとっての未知を、快楽を、私が刻み込んであげたい。そう思いながら舌を吸い出して啄んでいると、彼女は思い切り体を押し付けてきた。そのまま後ろに倒れ込んで、互いの唇が離れた。


「……陽葵さん。私、嫌だって言いましたよね。」

「……あっ。」


 私のお腹の上に跨って、赤らんだ顔でこちらを睨んだ。それもまた可愛らしいのだが、またしても私はやらかしたのだと気が付いた。つい先程拒まれたばかりなのに、キスしてしまった。


「えっと、ごめんね? 気持ち良くなって欲しくて、つい。」

「謝らなくて良いっスよ。お仕置きしますから。足でも舐めててくださいよ、ほら。好きなんでしょ?」


 私の上に乗ったまま、右足を顔に押し付けてきた。その爪先で口をこじ開けられ、中へと侵入される。突っ込まれた指を、私は舌で押し返そうとした。

 足を舐めるのが好きなわけじゃない。彼女の足だから、舐めても平気なだけだ。彼女の反応が好きなだけだ。こんな風にされたいわけじゃ――いや、ちょっとだけされたいけど。それは仕方が無い、小さな子に踏まれたりするのも妄想していたシチュエーションの一つなのだから。正直な所、これはこれで興奮する。

 小悪魔がくすくすと笑い始める。その瞬間に、脳のスイッチは完全に切り替えられた。抵抗する気なんて微塵も無くなって、幼子の様に彼女の指をしゃぶる事となった。


「必死に舐めちゃって。まさか、これがお仕置きだとでも思いましたか? これじゃあ、罰にはなりませんよね。……ねえ、陽葵さん。私が乗ってる所、分かりますか?」


 その小さなお尻が乗っているのは、下腹部。圧迫感はあるけど、体重の軽い彼女に乗られていても別段苦ではない。このくらいの重みなら、その温もりも合わせて心地好いくらいだ。


「お臍の下の所。ここ、何度も撫でたり、優しくぽんぽんってしてあげましたよね。この内側から、何か感じませんか? じわじわーって、熱くなってきませんか? ……ふふっ、気付いてますか? 陽葵さん、すごく気持ち良さそうな顔してますよ。」


 意識をしてしまえば、私はそれに気付いてしまう。下腹部は少しずつ熱を持っていって、くすぐったい様な、気持ちが良い様な感覚が徐々に現れ始める。それがどんどん強くなっていって、最後には欲を焦らす様な快感へと変わる。

 これはきっと暗示だ。ずっと前から彼女が仕込んでいたのは分かった。それに気付いても、私の体は止まらない。実際に気持ち良さを感じてしまっているから。そして、この下腹部の中には。性を象徴する物が、入っているから。


「ここ、何があるのか分かりますよね? 陽葵さんは、赤ちゃんのお部屋で気持ち良くなっちゃう変態さんにされたんスよ。使い道が出来て良かったっスね。」


 彼女が体を揺らすと体内に振動が伝わって、びりびりとした強い快感が下腹部を貫いた。瞬間、呼吸が詰まる。途端に荒くなる自らの呼吸音の中で、くすくすと笑う声が聞こえる。その声がする方を見上げれば、楽しそうに口元を歪め、見下した様な視線を送る彼女が居る。


「ずっと乗っててあげます。ずっと気持ち良いのが続きますよ。良かったっスね。まあ、許してって言ったらやめてあげますよ。言えたら、ね。」


 既に私は、子宮を揺さぶられる快楽の虜になっていた。一瞬でこんなに気持ち良くなれるなんて、それが長く続くなんて、それこそお仕置きにはならないじゃないか。そう思えたのは、最初の内だけだった。

 三十分だ。お仕置きが始まってから数時間は経っていると感じたのに、しかし彼女から告げられたのは、たったの三十分しか経っていないと言う事実だった。

 短い間に何度も訪れる性感の高波は、次第に苦痛を伴っていく。泣き叫んでもやめてもらえず、暴れようとしても既に力の入らない状態にまで追い込まれていた。許しを乞おうにも、口の中に足の指が突っ込まれたままでは言葉を発する事も出来ず。気絶するまでの間、気が狂いそうなほどの快感を与えられ続けた。

 それは、最早拷問だった。以前は罰して欲しいなどと考えていたが実際に受けてみれば、どうだ。例の件とは全く関係無いけど、罰はやはり罰なのだ。辛い事には変わりが無い。二度と受けたくないと思うからこそ、罰なのだ。

 性感によって得られるのは気持ちの良い事ばかりではない事を思い知らされた。まるで天国から地獄へと堕とされていく気分だった。彼女によって、私は新たに『お仕置き』を刻み込まれたのだ。

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