第一話始まりは終わりと同じ⑩


あらゆる可能性を考慮しない不均衡をもたらす不機嫌から不測の事態になる。


単なる家のはずだった、それが黒い風を纏った竜巻となり、それが高く伸びていく。


それが一つの塔、暗黒摩天楼となり、そこから噴水のように白亜の水が飛び出した。


それが、その辺り一面を虚数という海に沈めていき、それによって街が生まれた。


片田舎に不釣り合いな大都会である。


言い方を変えれば海上都市でもあった。


「次は新京しんきょうです」


そんなアナウンスが突如、流れる、清瀬邪喰、暗獄寺終音、闇削刑無、アイリッシュ・コーヒー四人は電車の中に転移させられていた、そして、それが始まってしまう。


「‥‥‥理想郷シャングリラ?」


と、闇削刑無が言葉を漏らした。


それに暗獄寺終音はこうも言う。


「ならば、失われた地平線ロストホライズンだな」


それにアイリッシュ・コーヒーはこう言う。


「光多ければ影が強い、ゲーテの言葉です」


それを、便宜的に名付けるならば無明むみょうの暗黒街とでも言えるのだろうか。


しかし、四人はその駅で降りた。


「すいません、切符を落としたようです」


アイリッシュ・コーヒーはそんな状況にも適応して三人を引き連れ駅員に言う。


「あぁ、では、別途にお支払下さい」


アイリッシュ・コーヒーが駄賃を払った。


合計四千四百四十円である。


一人、千百十円だったらしい。


「この異界の法則性セオリーが一つ分かったが、きさらぎ駅の法則性セオリーではないな」


駅前には歓楽街があったが、そこがあまりにも奇妙に見えた、長いロングスカートはスケバンというのがしている古臭い者で、更に黒い肌をした山姥ギャルガングロも時代遅れであり、そして、光和らしい制服の着こなし方をしていた、羽織る上着は自由自在であった、スカジャンもいる、暴走族の特攻服もいる、近未来的なサイバネティックスなヘッドホンやイヤホン、眼鏡やサングラスはAR内蔵型であった、それによって、収集ゲームをするおじさんもいた、或いはランニングする時間を数えさせている者もいた、時節柄と言えば春だろうが、それにしてはやや暖かい気がする、肌寒いというのを突き詰めればこうなるだろうという寒気が犇々と一面に満ちていた。


過去と未来が混ざりあって今と化した。


駅を出てすぐ、丸いオブジェに上半身のみの女性のアンドロイドが案内所にいた。


「ようこそ、新京へ!」


清瀬邪喰はその急展開についていけそうにないが、暗獄寺終音は順応していた。


一番、不適応なっているのは闇削刑無だ。


「ここはどこなのだ?どうすればいい?」


それを尻目に暗獄寺終音はこう言う。


「アイリッシュ・コーヒー、ホテルをまずは探そう、そこをまず拠点としよう」


そして駅前のビジネスホテルの部屋を四人分確保する事になってしまったのだった。





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