第113話 新たな動き その一

 詐欺師の捕り物劇が有ってから半年余り、私の周辺では平穏な毎日が続いています。

 最近は近所の頼まれごとも多くなりました。


 その多くはお隣の親分さんが持ってくる話が多いのです。

 親分さんは地域の住民の為に何くれとなく善行を計らっている方ですから、私も好感を持っているお人ですけれど、私に輪をかけたお節介焼きですからね。


 あちらこちらに手を伸ばして、少し手を広げ過ぎじゃないかと思うのですけれど、本当に困った時私のところに相談に来るんです。

 私が最後の拠り所みたいに思っているのかしらねぇ・・・。


 悪意が無いのはわかりますけれど、私も困ってしまうことが結構あるんですよ。

 魔法で片付くような話とは限りませんし、誰も知らないような魔法を人目にさらすのも良くはありませんよね。


 まぁね、一月に一回有るか無いかの頻度ひんどなので、何とか良かれと思う方向にさばいていますけれど。

 前世でも、これほどり寄ってくるお人はいませんでしたね。


 いずれにしろ私を見込んでの話のようですからできる範囲で対応していますよ。

 ところで、王都から正式の依頼が来ました。


 一つは王宮魔法師団から魔法師の養成強化についてのお願いです。

 現在預かっているのは飽くまで結界発生装置の維持のための要員養成ですが、今回来たのは軍事力としての魔法師の養成です。


 今一つは、錬金術師。薬師ギルドからのお願いで、弟子の受け入れ人数を増やしてはくれまいかというお話でした。

 こちらの方は、魔法師の受け入れもあるので取り敢えずはお断りしました。


 ところで、王宮魔法師団における後継者の自主的な養成の件ですが、若い魔法師には荷が勝過ぎたのかもしれませんが、魔法師団の内部のねたみや嫉妬しっとのような感情が邪魔をしている可能性が大いにあります。


 私のところで研修を受けて行った者達は相応に優秀な人達でしたから、彼らに後輩の育成ができないわけでは無いはずなのです。

 私の見るところ、現実に領軍魔法師団の方は割合とうまく育っているようなのです。


 能力的には間違いなく王宮魔法師団の二人の方が上でしたからね。

 その二人にできないのであれば、魔法師団の体制なり、雰囲気に問題が有るのでしょう。


 但し、私がそこまで足を踏み込むわけにも参りませんから、そこは敢えて口にはしません。

 でも、少なくとも巣立っていった弟子でもある二人の魔法師には激励の手紙を送っておきました。


 魔法師団の依頼を受けるという事はある意味で彼ら二人の努力を無にする恐れもあるからです。

 王宮魔法師団から来た依頼は、二人若しくは三人の魔法師の養成を依頼するものでした。


 但し、受けるにあたり私からも注文を付けました。

 私自身が、希望者の中から6名の候補者の選定を行うという事です。


 私が選んだ6人までの候補者のうちから、魔法師団が三人を選ぶように言ったのです。

 少なくとも私の研修生であったモールとビアンカをないがしろにしたような者については問答無用で候補者から外すつもりです。


 能力以前に人格的に問題が有るのなら、そうした人間に危ない魔法を教える気はありません。

 当然のように王都からの依頼を聞き付けたサルザーク侯爵からも養成依頼がありました。


 私が見るところでは、領軍騎士団の魔法師ではそれほど困った様子は無いのですけれど、一期生の二人を見て私のところに研修に行きたいという希望者が多いのも事実のようです。

 従前のだけですと人数的に無理でしたが、今はもありますので、受け入れに困ることはありません。


 現在、母屋には私を含めて女ばかり7人、離れには男ばかり4人が暮らしています。

 母屋には共用部分を除き、二階、三階に各8室があり、ドロテアとカルロッテは今のところ同室ですので、最大十人の受け入れは可能なのです。


 離れの場合は、個室が全部で十二室もあって四室が埋まっていますけれど、更に最大八人の受け入れも可能なんです。

 尤も、これらのうちの二室は、新たに雇うであろうコックとメイドで使われる予定ですけれどね。


 男女の構成比によっては、母屋と離れの両方を男女混合にしなければならないかもしれませんね。

 以前から考えていたことなのですが、この際なので、二人ほどヒーラーの研修員を追加することにしました。


 聖ブランディーヌ修道院の修道女は、聖職者としてのおつとめが有るので、修道院で行う研修ならば参加できても、泊りがけでの長期にわたる研修は無理なようなのです。

 それでも地域医療にはヒーラーというか治療師というか、看護師以上に医療ができる人間が必要なんです。


 ですから市井からそうした治癒に潜在能力を持つ者を私が選抜しました。

 一人は冒険者のアリス(15歳)、もう一人は領都の孤児院にいたダフネ(11歳)です。


 ダフネは、領都にあるお店への就職が決まりかけていましたけれど、私が途中からかっさらってきました。

 あ、無理強いはしていませんよ。


 まぁね、頭の良い子ですから店員としても優秀になるでしょうけれど、治癒師の方が絶対に向いているのです。

 ですから説得して領都から連れて帰りました。


 アリスについては、偶に顔を出しに行った冒険者ギルドで見つけました。

 彼女、冒険者になったのはいいのですけれど、地力が無いので仲間と動いていても足手まといになっていたようで、仲間から追放されかかっていた様なんです。


 その場面に遭遇して鑑定をかけ、適性を見て、その場でスカウトしてきた子です。

 今はアリスとダフネの二人ともに母屋に住んでいます。


 従って、母屋の空きは取り敢えず二人までなので、女性は二人まで?

 まぁ、そこは男女の機会均等と言う原則で敢えて制限はしません。


 一月後、王宮魔法師団から6名の候補者のうち3名が選出され、領軍魔法師からも3名が選ばれ、研修生として受け入れることになりました。

 王都魔法師団の3名は、1週間後にまではカボックに到着する予定で、領軍魔法師3名もそれに合わせてカボックに来る予定です。


 研修にかかる食費等については、前回と同様にそれぞれで負担してもらうことになっていますが、それぞれの派遣元でその分の手当ては出すようですよ。

 でも、ヒーラー研修生の二人は、私の雇人という建前で毎月の給金を貰いながらの研修です。


 その点は、錬金術師見習いと薬師見習の弟子二人と同じような待遇になりますね。

 幸いにして、王宮魔法師団の魔法師も領軍魔法師も全員が男ばかりでした。


 新たに雇ったコックは男性一人、メイドも一人です。

 このために離れにはコックを含めて、11人が寝起きし、母屋には私を含めて12人が寝起きすることになりました。


 全部で23名ですからやっぱり大所帯ですよね。

 お隣の親分さんのところよりも抱えている人数なら多くなりそうです。


 ◇◇◇◇


 王都魔法師団からは、ダン・フォーセット(21歳)、クラウス・モーレン(21歳)、エミリオ・ステファンド(20歳)の三人です。

 私がひねくれていない素直な人物を選んだら、6人とも若い子になりました。


 その6人の中から魔法師団の幹部が選んだ3人です。

 領軍魔法師は、最初から三人だけを選んでいますが、補欠として次年度以降の予定者も一応選んでおきましたよ。


 従って、来年も同様に魔法師の研修生を受け入れるつもりですが、ひねくれた人物については、例え王家から依頼があっても受けません。

 特に、モールとビアンカを見下して、嫉妬し、嫌がらせをしていた連中は駄目です。


 別に私が執念深いわけではありませんが、送り出した二人の立場と将来も考えてあげなければなりません。

 魔法師団で成果が上がらなかった理由は、そんな連中が半数以上を占めているからなのです。


 どちらかと言うとそのような連中は高位貴族の子息令嬢に多いですね。

 最初から、身分の低いモールとビアンカの教えを請うことを拒否しているような連中です。


 因みに、モールは平民出身、ビアンカは男爵家の三女です。

 前世で比較的差別のない社会で生きて来た私には、こちらの絶対王政による差別社会はなかなか受け入れがたいところがありますね。


 ならばこちらは、能力と性格で区別をすることにします。

 師匠ならではの差配ですね。


 一方で、魔人同士の戦いにも動きがありそうです。

 潜り込ませているスパイインセクトが新たな情報を掴みました。


 どうやら業を煮やした幹部連中が、魔人が持つのような大魔術を繰り出す準備を進めています。

 しかも図ったように、サブBとサブCの双方が同じような動きをしています。


 彼らの最終奥義は、集団による遠距離砲撃と言えばわかりやすいでしょうか?

 魔力の高い連中が気を合わせて同じ遠距離魔術を放つのです。


 但し、この魔術はかなりの準備時間を要し、その間は無防備になりやすいという欠点が有るのです。

 従って魔人集団のサブBもサブCも、半数を防御に回し、半数をこの究極奥義の魔術発動にかけるようです。


 この究極奥義は、彼らの言葉ではアン・タンティェと言うらしいのですが、要は遠距離から放つ爆裂魔法のようなもので、通常の結界なら一気に破壊するほどの威力があるようです。

 然しながら、この魔術を発動するとその術者は丸々二日ほども寝込んでしまうことになるようです。


 サブB、サブCともこれで相手グループを葬り去れると考えているようですから、相当広範囲に及ぶ威力と破壊力なのでしょうね。

 で、私もどうするかを決めねばなりません。


 漁夫の利を決め込んでサブBとサブCの生き残りがいれば、殲滅行動に出るかどうかなのです。

 以前にも言ったかもしれませんが、私は戦が嫌いですし、種が違うからと言って別の種の命を奪うのも好きではありません。


 但し、弱肉強食の世界にあって、魔物に襲われそうなら同族を助けますし、場合によっては予防的に駆除もします。

 この世界では、戦を仕掛けられたので、不本意ながら大勢を殺戮して侵略を止めました。


 だからと言って、攻めて来た敵の国を滅亡させようとは思いません。

 中途半端な平和主義ではありますけれど、前世でも悩んだ末に出した結論です。


 尤も、私は前世では医者でしたからそのような場面に遭遇したことは無いんですよ。

 でも、万が一そのような場面に遭遇したら、自分で銃の引き金を引くのか引かないのかを本当に悩んだことはあります。


 米国留学中に、滞在していた下宿先の隣家で強盗殺人事件が有ったのです。

 隣家の御主人は、右手に銃を持ったままでナイフを突き立てられて亡くなっていました。


 おそらくは発砲の機会があったにもかかわらず、撃たなかったのです。

 そのために一家が皆殺しに遭いました。


 因みに、犯人は十代の高校生二人だったようです。

 真相は藪の中なのですが、相手が少年であったために隣家のご主人は、相手を殺すことを躊躇ためらって、殺されたのかもしれません。


 私は、殺害現場を見てはいませんけれど、担当した検視官から別の機会に情報を貰ったのです。

 私がそのような場面に遭遇して、もし拳銃を所持していたら、発砲すべきか否か。


 そんな命題に、一週間も寝られない日が続きました。

 その上で出した結論は、『身を守るため、親しい人を守るためにできることは何でもする。』でした。


 この結論を出すためだけに、前世の私は、1週間も悩んだのです。


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 9月18日、一部の字句修正と人数の整合を行いました。


  By @Sakura-shougen



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